経営者の中には、決算書作成を経理社員や税理士に任せていて、あまり見ていない方も多いかもしれない。自分の会社のことは決算書なんて見なくてもわかる、というのはその通りかもしれないが、かといって決算書を見ないまま放っておくのも気が引ける方も多いのではないだろうか。
決算書は専門用語が多いので、何を見たら良いのかわからない、という声も多く聞く。そんな方のために、今日は決算書を見る際のポイントをまとめた。
決算書というのは、会社の全ての活動を数字に落とし込んだ情報である。経営者は常に将来を見据えて行動する必要があるが、この記事を読めば、過去の情報である決算書を見て、将来のための新たな課題や解決策を見つける事ができるだろう。今すぐできる決算書の読み方のポイントを伝授したいと思う。
Contents
1.チェックすべき決算書は貸借対照表と損益計算書
一般的に決算書には次の4種類がある。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- キャッシュ・フロー計算書
このうち、経営者がチェックすべき決算書は貸借対照表と損益計算書である。
貸借対照表とはBalance Sheet(BS)と呼ばれるものであり、決算日時点の財産の状態を表すものである。会社の資産や負債、純資産が左右対照に表示されている。
損益計算書はProfit and Loss statement(PL)と呼ばれるものであり、一年間の会社の経営成績を表すものである。売上とそれに掛かった諸々の費用、利益が表示されている。
株主資本等変動計算書は、貸借対照表の中の株主資本という項目を取り出して一年間の動きを表にしたものである。株主資本に複雑な変動があるケースはそれほど多くないので、今回の決算書の読み方からは対象外としたい。経営者の方が決算書を読むときも、それほど気にしなくても大丈夫である。
キャッシュ・フロー計算書は、一年間の会社の現預金の動きを表すものである。キャッシュ・フロー計算書を作成している会社はあまり多くなく、通常は資金繰り表でお金の動きは把握していると思うのでこちらも対象外とする。
2-1.貸借対照表の構成
ここでは少し難しい話になるが、貸借対照表で知って頂きたい情報をお伝えする。特に覚える必要はないので、こんなものかとざっと知って頂ければ大丈夫である。
貸借対照表は、次の項目で構成されている。
- 流動資産・・・現預金、売掛金、棚卸資産、立替金など
- 固定資産・・・建物、備品、投資有価証券、滞留債権など
- 流動負債・・・買掛金、未払金、短期借入金など
- 固定負債・・・長期借入金、社債など
- 純資産・・・資本金、利益剰余金、自己株式など
流動資産は、簡単に言うと会社の本業に関する資産のうち、備品等の有形固定資産以外のものである。現預金・売掛金・棚卸資産などがこれに該当する。それ以外に、一年以内に回収が予定されている立替金なども流動資産として表示される。
固定資産は、本業で利用する建物や機械などの設備、本業以外の投資・財務に関する資産と、回収が滞っている売掛金のように本来は流動資産であったがイレギュラーな事態になっているものがある。分類は以下のようになる。
- 有形固定資産⇒建物や備品など、実際にモノが存在する資産
- 無形固定資産⇒ソフトウェアや特許権など、目には見えないが権利を有している資産
- 投資その他の資産⇒有価証券や貸付金、破産更生債権など
流動負債は、会社の本業から生じた負債(支払が必要なもの)である買掛金・未払金・未払費用等と、一年以内に返済を予定している負債である短期借入金等がある。
固定負債は、一年を超えて返済を予定している長期借入金・社債・退職給付引当金等で構成されている。
純資産は、「流動資産+固定資産」-「流動負債+固定負債」で計算されるが、要は会社が持っている余裕資産である。純資産は、株主から出資された資本金や、会社が過去に獲得した利益の積み上げである利益剰余金、会社自身が保有する自己株式などで構成される。
2-2.貸借対照表でチェックすべきポイントは6つ
2-2-1.自己資本が十分にあるか
貸借対照表を見る上で最も重要なポイントは、自己資本が十分に計上されているかである。なぜなら貸借対照表は会社の財政状態を表すものであるが、自己資本は会社の余裕資産であるので、自己資本の割合を見れば、あなたの会社の財政が健全かある程度わかるからである。自己資本は貸借対照表の右下の項目である。
自己資本とよく混同するのが純資産、株主資本である。自己資本、株主資本は純資産に含まれる概念であり、集計対象となる範囲が少し異なるだけであるので、ほぼイコールと思って頂いて大丈夫である。
ちなみに東日本大震災に関連して多額の損失を計上した東京電力は、以前は自己資本比率が20%ほどあったが震災後の平成24年3月期は5%まで減っており、政府の救済がないと倒産寸前の状況だった事がわかる。
「自己資本比率」(自己資本÷総資産)が10%未満の場合、すなわち総資産の10%未満の自己資本しかないケースでは、あなたの会社は危ない状況である。上場企業で自己資本比率が10%を割っているのは全体の約1%(金融機関は自己資本の性質が事業会社と異なるので除く)しかなく、株式市場からの評価である時価総額も低い場合がほとんどである。
こういった会社では普通は銀行もお金を貸してくれないので、いったん資金繰りが悪くなると事業を継続するのが一気に難しくなる。
自己資本を増やす王道は、当期純利益を出すということである。毎期の当期純利益が、貸借対照表の自己資本の内訳である「利益剰余金」として積み上がっていくので、当期純利益を計上できれば自己資本も増えていく。それができれば苦労はしない、と思われるかもしれないが、まずは売上を伸ばす手段や削減できるコストを考えて、経営改善に取り組んで頂きたい。後の章(3-2-2)で利益の改善策を詳細に解説しているので、そちらも参照してほしい。
一方で、どうしてもすぐに自己資本を改善したいという経営者もいると思うので、その方法も解説したい。
【すぐに自己資本を増やす施策】
ⅰ増資をして資本金を増やす
自己資本には資本金が含まれている。よって増資をして直接的に資本金を増やすことで純資産を増やすことができる。増資に必要なお金の見込みさえあれば、株主総会を開催して資本金を払い込み、書類を作成して法務局で手続をすれば良いので、迅速・確実に純資産を増やすことができる。
ⅱデット・エクイティ・スワップをして資本金を増やす
デット・エクイティ・スワップ、略してDESとは、その名の通りデット(債務)とエクイティ(資本)をスワップ(交換)することであり、会社が負っている債務を免除してもらう代わりに株式を発行することをいう。
デット・エクイティ・スワップも増資の一つの方法であるが、増資の際にお金で払い込むのではなく、会社に対する債権を出資するという事に特徴がある。
この方法は経営者個人から会社への貸付金が多額にあるような場合に実行しやすく、経営者個人からの負債を資本金にすることができるので、純資産の大きな改善が見込める。
ⅰⅱ双方の注意点としては、資本金が大きくなると税金が増える場合がある。例えば、事業税の外形標準課税や、オーナー企業を対象とした法人税の留保金課税というのがあるが、これらの対象は資本金1億円以上の会社である。法人税や地方税も、資本金が増えるほど課税対象が広がり税率も高くなる。また増資もDESも経営者が引き受ける場合には、経営者個人の財務状況が悪化するという点にも注意が必要である。経営者個人としての生活がもちろんあるので、会社に出資できる限度額を予め見極めておく必要がある。
2-2-2.現金残高が実際にある現金と合っているか
BSに計上されている、現金残高を見て頂きたい。(銀行預金ではなく手元現金)
実際に会社に存在する現金と合っているだろうか?
実は、現金が合っていない会社はかなり多い。
よくあるケースとしては、経営者が会社の銀行口座から現金を引き出して、それを会社の経費ではなく経営者個人の支払に使うことがある。この場合でも会社から経営者への立替金で処理して後日返還すれば問題はないのだが、それを怠ると帳簿上は現金が残ってしまい、実際の残高と合わなくなってしまう。つまり、架空の現金が貸借対照表にのってしまうのである。
管理がしっかりしている会社は通常、手元現金をあまり持たないので、多額の現金が貸借対照表に計上されていると、銀行や税務署などの第三者は現金管理がきっちりと行われていないという印象を持つかもしれない。そうすると、あなたの会社の決算書の信頼性が落ちてしまう。
現金管理は基本的かつ重要なことなので、もし現金が合っていない場合は、現金出納帳を使って毎日実際の現金と照合するようにして欲しい。
2-2-3.経営者に対する貸付金が計上されていないか
会社からお金を借りた覚えなどないのに、経営者に対する貸付金がBSに計上されていないだろうか。
身に覚えがない経営者に対する貸付金が計上される主な経緯としては、
- 本来は会社経費となる接待費などが、経理部の判断で経営者個人費用になっている
- BSの現金残高を実際残高に合わせるために、差額を解明せずに貸付金にする
などがある。
経営者貸付金は、会社としては経営者から利息を取らなければならず、返済実績がないと役員賞与と認定され所得税を追徴される可能性があるなど、税務上様々な問題がある。また銀行も経営者貸付金を嫌う。なぜなら、融資したお金が会社の事業資金として使われず、経営者個人が流用する可能性があると考えるからだ。
身に覚えがない会社からの借金がないか、経営者はチェックしてほしい。
2-2-4.仮払金や仮受金などの勘定科目が残っていないか
仮払金や仮受金などは、その名の通り仮に計上しておくものなので、通常は期末に全て精算して残高をゼロにする必要がある。
もしBSにこれらの勘定科目が計上されている場合は、会社内で情報の共有が上手く行っておらず、会計処理の誤りや処理漏れの可能性があるので、経理部社員に原因の調整を指示する必要がある。なお仮払金や貸付金、立替金などは、従業員による横領等の不正の温床になりやすい科目でもあるので、明細書をチェックするなど内容を注意して把握しておいた方が良い。
2-2-5.売上や仕入と比較して売掛金・買掛金が多額になっていないか
まずBSの売掛金とPLの売上、BSの買掛金とPLの仕入を見比べて欲しい。
大体1~2ヶ月分の売上・仕入に相当する金額が売掛金・買掛金に計上されていれば、特に問題はない。一方で売上の40%以上が売掛金に計上されているような場合は、回収が滞っている売掛金があるか、回収のサイトが長すぎる取引先があるかもしれないので、経理社員や税理士に指示して詳細を調査する必要がある。
また売掛金と買掛金のサイトのバランスにも注意が必要である。
まずそれぞれの回転期間を算定する。
- 売掛金の回転期間=BSの売掛金残高/(PLの売上高÷12)
- 買掛金の回転期間=BSの買掛金残高/(PLの仕入高÷12)
※何ヶ月分の売上・仕入が、BS上の売掛金・買掛金残高として残っているかを算定している
売掛金の回転期間は小さければ小さいほど、売掛金の発生から回収までの期間が短いということなので資金繰り上は良い。一方で買掛金の回転期間は、大きいほど買掛金の支払までの期間が長いということなので資金繰りに余裕が生まれる。
現実的には両社は近い数字になることが多いが、例えば売掛金の回転期間が3ヶ月で、買掛金の回転期間が1ヶ月の場合は、買掛金の支払期日はすぐ来るのに売掛金は3ヶ月後にならいないと回収できない。3ヶ月分の支払資金を確保しておく必要があるので、資金繰りが厳しくなってしまう。
売上は順調に上がっているのに資金繰りがいつもカツカツだと感じている方は、支払・回収のサイトの見直しができないか考えてほしい。
2-2-6.棚卸資産・有形固定資産で販売できないものや、使用していないものはないか
利益が出ていて節税の手段を探している方は、決算書や内訳書を見て、既に販売の見込みのない棚卸資産や、使用しなくなった有形固定資産がBSに計上されていないかチェックして欲しい。廃棄することで税務上は損金に計上することができるし、有形固定資産は有姿除却といって使用できないことが明らかな状態におけば、廃棄しなくても損金に計上することが可能である。
3-1.損益計算書の構成
損益計算書は、一年間に発生した全ての収益・費用の状況を表したものである。
ちなみに皆さんは、収入と収益、支出と費用は異なるということをしっかりと理解されているだろうか。収入・支出はキャッシュ・フローの考えであり現金の移動を伴うものであるが、収益・費用は現金の支払いがなくても損益計算書には計上される。基本的なことだが重要なので要注意である。
損益計算書には次のような利益が記載されている。
- 売上総利益・・・売上高から対応する売上原価を引いた利益。粗利である。
- 営業利益・・・売上総利益から、販売費及び一般管理費を引いた利益で、本業全体から得た利益。販売費及び一般管理費には、給料や家賃などが該当する。
- 経常利益・・・営業利益から、本業以外から発生した収益・費用を引いた利益で、本業と本業以外の両方から得た利益。
- 税引前当期純利益・・・経常利益から、臨時的に発生した特別利益・損失を引いた利益で、当期に実際に得た利益。特別利益・損失には固定資産売却損益など、一時的に発生するものが該当する。
- 当期純利益・・・税引前当期純利益から法人税等を引いた利益で、全ての経営活動の結果最終的に得た利益。
3-2.損益計算書でチェックすべきポイントは3つ
3-2-1.当期純利益はプラスを確保しているか
経営者によっては、PLの営業利益までは把握しているがそれより下の経常利益や当期純利益はあまりチェックしていない方もいる。確かに営業利益は本業から獲得した利益なので重要だが、もし営業利益が黒字でも当期純利益が赤字であれば、会社全体としては赤字という評価が第三者からは下される。
また当期純利益を計上しないと、貸借対照表の自己資本の内訳である利益剰余金が増えていかない。BSのチェックすべきポイントとして上げた自己資本を増やすためにも、当期純利益がプラスかどうかはチェックして頂きたい。
なお節税のためにあえてマイナスにしている場合もあるので、その場合は特に問題ない。マイナスの場合はその原因を把握する事が大事である。
3-2-2.営業利益率が低くないか
営業利益がプラスの場合でも、売上高で割った「営業利益率」が低い場合には注意が必要である。営業利益率が低い状態では経営の効率が悪く、売上が少し減少するとたちまち赤字になってしまう可能性がある。
営業利益率は会社の業種によって大きく異なるので、一概に何パーセント以上あれば良いというのは難しいが、業種別の営業利益率をまとめた統計があるので、自社と業界平均の営業利益率を比較することができる。下記に主要なものを抜粋しておく。
出典:財務総合政策研究所HP、法人企業統計調査(平成24年度)
営業利益率は(営業利益÷売上高)で計算され、営業利益は(売上高-売上原価・販管費)であるので、売上高を伸ばして売上原価と販管費を圧縮できれば営業利益率が上昇することになる。
【営業利益率を改善する施策】
ⅰ利益率の高い製品・サービスの売上高を上げる
当然であるが、売上を上げることが王道である。ただし営業利益率を改善するという目標からすれば、利益率の高いものを重点的に売る必要があるので、もし製品・サービス別の利益率を把握していない場合は、まずその管理から行う必要がある。やみくもに売上を上げるために頑張っても、もし利益率が悪い製品・サービスであれば、売れれば売れるほど会社としての営業利益率も悪化してしまう。
ⅱ固定費を削減する
PLの売上原価・販管費には変動費と固定費がある。売上の増減に応じて比例的に発生するのが変動費で、売上に関わらず定額発生するのが固定費である。固定費が少なければ利益が出やすい体質になるので、不要なものがないか見直す必要がある。
固定費の例としては、給料や社会保険料等の人件費、オフィス関連の費用(賃料・水道光熱費・消耗品費・通信費)、リース料、保険料などがある。
ⅲ変動費を削減する
変動費には材料費、外注費、販売手数料などがあり、売上と連動して発生するものであるため一般的には固定費より削減は難しい。しかし仕入単価の切り下げなどによって、ボリュームを減らさずに総額を削減する道はある。
なお営業利益率を意識しておくことで、目標利益を稼ぐにはいくら売上が必要か計算することができるし、その売上をつくるためには何をすべきか行動レベルに落し込む事ができる。さらに過去の営業利益率と比較することによって、悪化している場合には売上に直接結びつかない費用や固定費が増えているのではないか、など改善策を考える足掛かりにすることができる。
3-2-3.使途が明確でない勘定科目がないか
PLの販売費及び一般管理費の「雑費」や営業外費用の「雑損失」といった、使途が明確でない勘定科目に多額の金額が計上されている場合は、要注意である。従業員不正が起こっている場合に、これら使途不明な勘定科目が多額になる傾向がある。
また他に従業員不正の代表例としては、仕入や外注費の水増し計上がある。相手方と共謀して水増した請求書を送ってもらいそれに応じて支払って、その後に従業員個人にリベートをバックしてもらうという方法である。この場合は、売上高に比較して売上原価が異常に大きくなるという形で財務諸表に表れてくるので、売上原価率も毎期チェックしてほしい。
4.まとめ
途中で少し難しい話も出てきたかもしれないが、今回紹介した方法で決算書を読むと、これまで意識していなかった意外な発見があると思う。ぜひすぐに、手元にある決算書を、チェックすべきポイントに沿って読んでいって頂きたい。
梶山貴規
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