法人税節税の代表格。それが法人保険です。
しかし、保険営業の多くが会社の財務を知らず、税理士の多くは保険のことを知りません。保険営業が良い保険商品を提案しても何のメリットもない税理士に否定されたり、保険営業がとんでもない保険商品を提案しているのに顧問税理士が具体的に問題点を指摘しないで契約してしまったりしているケースが散見されます。そうなると社長自らある程度の知識をもって、法人保険を吟味して頂く必要が出てきます。
この記事では、まずは法人保険でキャッシュが増える賢い契約の仕方のポイントを説明したうえで、あまり知られていない契約後の保険の活用法をお伝えしたいと思います。
Contents
1.法人生命保険で失敗しないための8のポイント
法人生命保険で失敗しないためには、次の8つのポイントを守るようにして下さい。
- 中小企業セーフティー共済から始める
- 決算月に年払いで契約する
- 契約は分割させる
- 全損だけが節税保険ではない。
- 最高返戻率より起ち上がりと高い返戻率の期間の持続力重視
- 年金支払特約を付ける
- 被保険者は経営者又は同族役員から
- 生命保険契約イコール節税ではないことを理解しておく
以下では、それぞれのポイントについて説明をしていきたいと思います。
2.中小企業セーフティー共済から始める
生命保険より先に、中小企業セーフティー共済に予算を回しましょう。利回りが全然違います。もし、生保営業がセーフティー共済に入っていない会社に保険を勧めてきた場合、その営業は保険が売りたいだけです。
中小企業セーフティー共済は、残念ながら上限が決まっていて、それほど多額にかけることが出来ません。月額20万円で総額800万円までしか掛金を支払うことが出来ないルールです。
したがって、中小企業セーフティー共済に生保営業に勧められて加入したとしても、早晩、上限額に達して、普通に生命保険に加入しなければならなくなります。その時には、中小企業セーフティー共済を教えてくれた生保営業マンから購入してあげましょう。
まるで、「金の斧、銀の斧のおとぎ話」みたいですが、これが正しい法人保険のスタートのカタチだということを理解しておいて下さい。
保険営業マンの平均勤続年数は3年といわれています。中小企業セーフティー共済に加入しているかどうかを確認しない不勉強又は不誠実な営業マンは早めにいなくなる確率が高いと思われます。となると、何かと不便な思いをすることになりますので、誰から保険を買うのかを選択する際の一つの判断基準として覚えておいて頂くのも良いと思います。
3.「決算月」に「年払い」で契約する
決算月に保険に入らないと、その後、保険を使って、資金と利益をコントロールすることに多いに支障をきたします。決算月に保険契約をするという話をすると、法人税節税の短期前払費用の話と思う方が多いと思います。それ「も」ありますが、それだけではありません。
3−1.短期前払費用の適用を受けるため
決算月に年払いで保険契約をして保険料を支払うと、向こう1年分の保険料を支払った期の損金にすることが出来ます。1度に大きな損金を作れるので有効な節税対策といわれています。
3−2.年払いと月払いの変更を臨機応変に実施するため
年払いの契約を月払いに変更することで、12ヶ月分の保険料を損金にする時と、1ヶ月分の保険料を損金にする時を作り出すことが出来ます。そして、月払いから年払いに戻す時には23ヶ月分の保険料を損金にすることが出来ます。
ところが、その変更は1年に1回、契約月にしか出来ない保険会社があります。また、こうした変更は、決算の着地見込が正確に出ている時に実施するべきです。一番正確な決算着地見込が解る時といえば、決算月に他なりません。決算月に契約しないのは、後々の選択肢を狭める可能性があります。
3−3.請求停止、変換権の行使などを間違いなく実施するため
さらに高度な決算対策として、保険料の請求停止で全く保険料を支払わない年を作ったり、変換権を行使して、保険契約を解約することなく、解約返戻金と新しい保険契約を手に入れるなど、保険契約を使って、様々な決算対策を行うことが出来ます。
こちらも安易に実行するものではないので、決算月に着地見込を見ながら判断するのが一番間違いない対応になります。だから、基本的に決算月以外に法人保険契約をするというのは、オススメ出来ないのです。
3−4.銀行評価を上げるため
節税をするということは利益が減ります。したがって、借入金のある会社は節税対策と併せて、銀行対策を実行していく必要があります。
銀行対策では、毎月あるいは四半期毎に金融機関の支店の審査担当役席者に、月次の報告を行っていきます。仮に毎月報告するとして、決算月に節税対策を集中することで11ヶ月の黒字の月と1ヶ月の赤字の月(決算月)という形の報告をすることになります。決算3ヶ月前になったら、「今年もおかげさまで沢山利益が出ているので決算月には●●の節税対策を行って、着地見込額は●●円になります」と予め伝えておくということです。こうすることで、とても計画的な凄く儲かっている会社という評価を銀行から受けることが可能になります。
年度の途中で、ちょろちょろ節税対策をしていると、月次の報告をしていても、本来の収益力を銀行にアピール出来ないということです。これでは、巷のよくある節税本に書いてあるとおり、「その節税で会社が潰れる」になる可能性があります。
3−5.決算月以外に売りたがる保険営業は保険の使い方を知らない可能性が高い
ご説明したとおり、決算月以外に保険契約をすると皆さんが保険を活用する幅が大きく損なわれる可能性があるほか、正常な収益力が把握出来なくなり銀行対策も上手くいかなくなります。それでも決算月と関係なく熱心に売り込んでくる保険営業マンは、保険の使い方をしらないか、保険を売りたいだけの営業マンと考えざるを得ません。
3−6.保障をメインの場合は早く入りましょう。
ここまで決算月で入ることを強く推してきましたが、例外もあります。
完全に保障目的で契約するような掛け捨ての保険は、早く入って下さい。社長の体になにかあってからでは遅くなります。保険料も安いでしょうから、上記に書いた決算月に入らなければならない理由と照らしても問題ないと思います。
上記を踏まえたうえで、何がメインの目的なのかを良く考えて、かつ、金額的影響も加味しながら、決めていくようにしましょう。
4.契約は分割する
保険の機能を最大限発揮するために契約は分散させて下さい。例えば、保険金1億円の契約をするなら、5千万円を2つにするということです。
保険契約を分割すると、契約の本数だけ契約時に書かなければならない書類の数が増えます。したがって、保険を販売する側としてはお客様の不満足度が上がってしまうというリスクがあります。単純に1本の契約にまとめた方が、売る側の書かないといけない書類も少なくて楽というのも事実です。
それなのに何故分割するかといえば、将来、保険を使う時に分割していた方がフレキシブルに保険を活用することが出来るからです。
この図を見て頂いたら、その意味はご理解頂けると思います。契約を分割することで、臨機応変な財務対応が可能になります。
どれくらいの金額で分割するべきかについては、保険会社毎に定められた高額保険料の上限額毎に分割するのを基本方針として下さい。そうすれば、一番有利な安い保険料で契約することが出来るので利回りも最大化出来ます。なんでもかんでも細かくするということになると、事務作業の繁雑さと利回りの低下を招くので、何事も程度問題があることを念頭に対応するようにしてください。
5.全損だけが節税保険ではない。
生命 保険は全額損金になるものから、全く損金にならないものまであります。全額損金のものが最も節税に貢献しますが、だからといって、全額損金の保険が一番良いわけではありません。
節税だけを目的として生命保険を契約するなら、全額損金の保険は良いと思います。しかし、全額損金の保険を解約すると解約返戻金が100%雑収入という益金になりますので、1/2損金の場合よりも多額の雑収入が発生することになります。
この解約時の雑収入の金額の大きさは、例えば事業承継対策で退職金を支給した場合の株価の下落幅に影響を与えます。つまり、1/2損金の方が株価が下がり、相続税が安くなるということです。
いま存在する全損保険は、そもそも保険としての補償の範囲が狭くなっていますし、法人税の実効税率が低くなっている状況を考えると、全損ありきの発想では、結果的に損することがあり得るという認識で商品選定をするのが良いと思います。
6.最高返戻率より起ち上がりと高い返戻率の期間の持続力重視
保険の返戻率は高い方が良いです。しかし、最高返戻率が高くても高い期間が短い保険があります。これを利用して退職予定年度に解約返戻率がピークを迎えるような保険を設計することがありますが、果たしてこうしたやり方が結果的に上手くいくのでしょうか。
例えば、最高返戻率は少し劣るかもしれないけれど、返戻率が高い期間が長い保険があったら、そちらの方が、いつ解約しても、ある程度高い返戻金が受け取れて、「損する可能性を減らす」ことが出来ます。
通常は予定より長く社長を続けることが多いことを考えると、最高に得する保険よりも、何があっても、そうそう損しない保険の方が良かったりする場合も多いと思います。リターンは減りますが、リスクはもっと減る保険契約がないか?という観点も重要だと思います。
年金受給年齢引き上げなど外部経済の影響も勘案して、どう対処するのか冷静に考えたいものです。
7.年金受取特約を付ける
保険金は一時金で受けとると考えがちですが、年金として受けとれる特約が付けられるものもあります。受取時に何れかを選択できますので、特約があれば付けるようにしましょう。
役員退職金の支給額以上の保険金を受け取れるような場合には、一時金で受け取って法人税を納税するよりも、コツコツ分割で受け取った方が、別の節税対策で資金を活用出来る場合もあるので、効率的です。
この特約を付けても保険料が上がらない場合には、絶対に付けるようにしましょう。
最近この特約が付けられるようになった保険会社もありますので、既契約については一度担当営業マンに尋ねてみて下さい。
8.被保険者は経営者又は同族役員から
福利厚生を目的として、代表取締役以外の役員や社員にまで範囲を拡げて生命保険に入る会社があります。大変立派な心がけだとは思いますが、理論的にも実態面でも適切な方法ではありません。
理論的に、中小企業で業績に影響を与える人物が誰かといえば社長(あなた)です。他の役員、社員の比ではありません。したがって、経営補償を考えた場合には、社長を被保険者とした保険に入るのがもっとも適切な保険契約ということになります。
次に、実態面において、社長は会社を辞めることができませんが、社員は辞めることが出来ます。したがって、社員を被保険者としてかけた生命保険は、解約返戻率が低い状態であっても、退職に伴い解約しなければならないというケースが発生します。また、仮に社長を被保険者として契約した保険であっても、社員の退職時や死亡時の退職金の原資として解約することは出来ます。むしろ、その方が社員に保険をかけるよりもフレキシブルに対応出来るのです。
したがって、生命保険契約は、社長で契約出来なくなるまでは社長を被保険者として契約するのがセオリーなのです。一方で、社長が高齢の場合には、社長よりも若い同族役員を被保険者とすることで、より安い保険料で保険契約をするのが効果的になります、基本的に、社長ないし同族役員を被保険者として契約しておけば、後々、トラブルになりにくく、かつ、何かあった時には柔軟に保険を活用できるので、望ましいのです。
9.生命保険契約イコール節税ではないことを理解しておく
最後に悲しいお知らせがあります。
保険契約をすれば、保険料で法人税が節税になると考えている方、その考えは間違っています。退職金を受けとる年度の利益より退職金の金額の方が大きくないと保険期間全体ではマイナスになります。
多くの保険営業と税理士までもが、そのことを理解していません。保険で法人税が節税になるか?と問いかけることで、どれくらい法人保険について理解しているかを把握することが出来るので一回質問してみましょう。
保険契約をすれば、保険料を支払うことになります。全額資産計上の生命保険を除き、少しでも損金になる部分があれば、節税にはなります。しかし、最終的に解約した年度まで含めて節税になったかどうかを考えると、退職金支給年度の利益と退職金の大小関係が影響するのです。
退職金支給年度の利益だけでは支払えない額の退職金を支払う場合は、通期で、生命保険を活用して退職金を積み立てた場合に節税メリットが発生しますが、退職金の額が生命保険を積立なくても支払える少額の退職金の場合、保険契約を解約して退職金の原資とすると、結果的に節税メリットがないということになります。
結局、出口の決算をどう対策するのかによって、節税の効果が出るか出ないかが変わりますので、この点については、特に税理士がしっかりと理解して対応しないと、結果的に生命保険を契約しない方が良かったということになりかねない点に注意が必要です。
とはいえ、こうしたことに気が付かなければ問題にすらなり得ないので、このページを見なければ良かったという社長の方が多いのかもしれません。
10.決算対策と生命保険契約の活用方法
生命保険は、退職金の原資の確保のために契約する会社が多いと思います。しかし、一方で、その後、業績が悪化したことによって解約してしまっているケースも散見されます。大手の保険代理店に聞いたところ、平均契約期間5年という話を聞いたこともあります。
しかし、そもそも、生命保険には、解約しなくても、法人の利益と資金を別々に改善する機能が備わっています。それをまとめたのが下記の図です。
本来、退職金の原資にするつもりであれば、退職するまでの間に解約してしまうわけにはいきません。保険契約を活かしながら利益と資金を別々にコントロールして、当初の契約の目的を達成出来るようにするべきです。
10−1.変換権の行使
利益も資金も厳しい時には、変換権の行使を検討しましょう。
保有する生命保険契約に変換権が付いていたら、変換権の行使をしましょう。変換権の行使であれば解約+新契約ですので、解約返戻金の払い戻しによる資金繰り改善と雑収入計上による利益改善が見込めます。また、新契約に際して審査もありませんので、体調の悪化により新契約が締結出来ないということもありません。
10−2.払済への移行
利益は厳しいが資金的には余裕がある場合には、払済という手続をしてください。
払済にすることで保険契約は時価評価に洗い替えをしなければいけなくなります。これによりその時点での解約返戻金相当額を雑収入として処理することが可能です。一方で、資金はそのまま生命保険会社に残り運用されます。
また、払済にした場合、3年以内であれば契約を復旧出来ます。つまり、業績が改善した暁には元の契約に戻すことが出来るのです。(復旧に際して健康診断等の審査が必要になります)
10−3.契約者貸付
利益は余裕があるが資金的に苦しい場合には、契約者貸付を利用しましょう。
契約者貸付とは、解約返戻金を担保にした資金の借入です。特長は申込をしてから入金されるまでの期間が短いことです。3日から5営業日くらいで着金する会社が多いようです。また、最終的には解約返戻金で返済することも可能です。
ここで紹介した3つの方法はメジャーな方法のみです。保険料の支払い方や会計処理の仕方を併せると、色々な対策のバリエーションがあります。
こうした活用法まで保険営業の方の責任にしてしまうのは気が引けますが、法人保険を販売するなら、一言、経営者なり、経理担当者に説明をしてもらえたら良い営業ということになると思います。
一方で、こうした活用は顧問税理士の出番でもあります。税務の専門家なので保険のことは解りませんという云い方も出来るかもしれませんが、そもそも退職金の原資を積み立てるのに保険が良いといったのは顧問税理士ということも多いでしょう。であるならば、そのスキームの実現に向けて、一肌脱いでいく覚悟と知識が必要になると思います。
とはいえ、最終的には経営者の責任として、「安易な生命保険解約はしない」ということだけでも頭に入れて頂き、解る専門家の助言を得て頂けたらと思います。
11.保険契約で資金を溜めるお手伝いは財務顧問の仕事です。
保険営業がもってきた提案について、会社の財務にプラスのものか判断するのも税理士の仕事だと私は思います。しかし、税理士自身にとっては、あなたの会社が保険契約をすることは何のメリットもありません。むしろリスクが増えたくらいに思っている税理士もいると思って下さい。その前提で相談しないと、ダメな保険を契約するよりマシかもしれませんが。今年も税金で資金が流出してしまうことでしょう。
また、せっかく契約した生命保険を安易に解約している経営者が多いのも非常に残念です。それを止めて、より良い対応を提案するのも、また税理士の仕事のように思います。この点は税理士毎にお仕事のドメインは違うと思いますので、一概に言うことは出来ないかもしれませんが、経営者の側にいるお金の専門家が顧問税理士しかいないということが多い点を踏まえると、自分は関係ないというスタンスは如何なものかとも思います。
ビズ部では、セミナーを受講下さった方に、財務顧問の提案をしています。現状の顧問税理士には申告書等の作成を依頼したまま、財務上の諸問題を解決することをお手伝いするのが財務顧問の仕事です。
この記事は、財務顧問の仕事のうち、生命保険に関するポイントを公開させて頂いた記事になりました。興味のある方は、是非、ビズ部セミナーに参加して下さい。
では、最後にお別れの一言、キャッシュ・イズ・キング!!
山口 真導
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