あなたは自社の決算を完全に掌握していますか?
利益を増やしたり減らしたり、資金を増やしたり減らしたり。
利益を増やしても資金は増やさなかったり、利益を減らしても資金は減らさなかったり。
利益が増えるのに法人税は増えなかったり、損失が増えるのに法人税は減らなかったり。
これはマジックでも何でもありません。わたしにご相談いただけたら、どの会社でも実現出来ることです。
今回は特別に、その魔法のレシピを公開してしまおうと思います。この記事を読み終えたら、あなたは、誰が決算を組んでも結果は同じなんて、二度と思うことはないでしょう。
Contents
1.決算対策の全体像
最初に決算対策の全体像を把握して頂きたいと思います。なぜなら、決算対策に対する2つの誤解が存在するからです。
ひとつ目の誤解は、決算対策=節税対策です。
決算対策というと、真っ先に節税対策を思いつくヒトが多いようです。しかし、節税対策は決算対策の一部でしかありません。
決算対策には、節税対策のように利益(所得)を圧縮するだけではなく、利益を増やすことも含まれます。決算対策の方が、より広い概念なのです。決算対策をネット検索すると、節税対策の情報しか出てきませんが、これらは決算対策の一部を紹介しているに過ぎないということです。
ふたつ目の誤解は、決算対策=利益対策です。
決算対策は、利益の金額を調整する対策と考えられがちですが、それでは決算対策の半分も考えたとはいえません。利益対策は決算対策の一部でしかありません。
経営上、利益よりも大事なのが資金であることに異論を唱えるヒトはいないでしょう。そして、(現金商売かつ無借金経営という状況は別として)利益と資金が必ず同時に動くものではない以上、その対策は別々に考える必要があります。
わたしが“キャッシュ・イズ・キング”とビズ部のキャッシュ・フロー改善方法の記事や資金繰りのキホンで吠えるのは、利益よりも資金の方が、経営上は遙かに大事なのに、一般的な情報は常に利益に偏重していて、資金の問題を解決する対策が不足しているからです。
二つの誤解を違う云い方で表現すると、決算対策は利益があろうがなかろうが、資金があろうがなかろうが関係なく実施しなければならない経営意思決定ということです。
この記事を読了後、決算対策=節税対策と考えて、利益が出てないからそのまま放置ということや、決算対策=利益対策と考えて、資金が足りなければ資金調達するしかないと考えることが、いかに勿体ないことかも理解して頂けると思います。
1−1.決算対策の6パターンと節税対策
決算対策を考える際、わたしの頭の中には、次の様なマトリクス図が存在します。
決算対策の検討にあたって、お客様の状態を利益と資金の状況の組み合わせで、まず4つのパターンに分類します。そして利益に余裕がある場合には、利益だけを減らすのか、それとも「所得」を減らして節税するのか?の判断を行います。つまり、実際には6つのパターンから判断を行い、それぞれの会社の「その期」の決算対策として適切なものをアドバイスするのです。
このように、自社の決算時点の状況が上記マトリクスのどれにあてはまるのかによって、適用する決算対策が違うことを知ることが、決算対策を理解するためのスタートになります。
1−2.決算対策で利益と資金と所得をどう動かすのか?
これらの6パターン毎に、どのような対策が必要かを表したのが次のマトリクス図です。下記のマトリクス図に示した結果が得られる対策を行えば、目的の決算に近づけるということです。
図中で「所得」という言葉が出てきましたが、これは税務上の利益のことをいいます。しかしながら、利益と所得は完全に一致する概念ではありません。したがって、利益に余裕がある場合の決算対策には、資金の状況に応じて、利益を減らすのか、所得を減らすのかによって、更に2つのパターンが存在します。そして、所得を減らせば税金が減りますので、この対策は、俗にいう節税対策ということです。
税金計算用の決算書を作っている多くの中小企業の場合、利益と所得は一致します。その場合、マトリクスは4パターンで済むかもしれません。決算対策を充分に活用している会社は、さらに2パターン追加して6パターンで考えます。それだけ決算対策の選択肢が増えるので、経営者の意のままに出来る余地が増えるという風に思って下さい。
1−3.【対策1】利益と資金を増やす決算対策
さて、決算対策の詳細説明は後ほどするとして、決算対策マトリクスのそれぞれの枠にどんな決算対策が入るのかを先に説明したいと思います。なお、それぞれの決算対策の説明は、5章以降に記載がありますので、個別対策の内容を確認したい場合は、5省以降まで進んで下さい。
利益も資金も厳しい場合の対策は次のとおりです。
- 見込み案件の早期受注・早期納品・代金回収
- 仕掛案件の早期納品・代金回収
- 含み益資産の売却
- 生命保険の変換権の行使
- 生命保険の年払いから月払いへの変更
- 生命保険の請求停止
1−4.【対策2】利益を増やす決算対策
利益が厳しいけれども、資金的な手当が不要な場合の対策は次のとおりです。
- 見込み案件の早期受注・早期納品
- 仕掛案件の早期納品
- 支払時の費用処理から資産処理への切替
- 支払済の費用処理から資産処理への切替
- 社長借入金の債務免除
- 生命保険の払済化
1−5.【対策3−1】資金を増やす決算対策
利益には余裕があるが資金的に厳しい場合の対策のうち、節税対策以外の対策は次のとおりです。
- 新規受注案件の着手金(前受金)受取
- 滞留債権の回収
- 生命保険の契約者貸付
1−6.【対策3−2】所得(利益)を減らして資金を増やす決算(節税)対策
利益には余裕があるが資金的に厳しい場合に実施する、お金を使わない節税対策は次のとおりです。
- 債権・在庫の評価損
- 不採算事業の整理・売却
- 不要設備の売却処分
- 滞留在庫の売却処分
- 未払費用の追加計上
- 各種税額控除制度の利用
税額控除の制度を利用するためには、資金流出が必要というご指摘を受けそうですが、決算対策は、決算前に実施するものです。決算対策としては追加の資金流出を最小限にして税額控除制度の適用を受けることで、追加資金流出より大きなリターンを得ることと、理解して下さい。
1−7.【対策4−1】利益を減らす(所得は減らない)決算対策
利益にも資金にも余裕がある場合に実施する決算対策のうち、会計上の利益だけを減らす決算対策は次のとおりです。将来発生すると予想される費用を前倒しで利益に余裕のある決算期に処理してしまう方法です。
- 固定資産の減損損失の計上
- ソフトウェア開発費の研究開発費処理
- 会計上の貸倒引当金の計上
- 賞与引当金の計上
- 退職給付引当金の計上
1−8.【対策4−2】お金を使って所得を減らす決算(節税)対策
利益にも資金にも余裕がある場合に実施する決算対策は、節税対策のうち、お金を使う節税対策です。その代表的なものを上げると、次のとおりです。
- 決算賞与
- 中小企業セーフティー共済加入
- 生命保険加入
- 広告宣伝費、交際費等の前倒し
- 少額固定資産の購入
- 中古資産の購入
なお、節税対策については、全ての起業家に捧ぐ!法人税の全節税手法50とその手順【保存版】という記事に詳しく書いてありますので、ここに記載のない対策については、コチラの記事で確認をして下さい。
2.決算の見せ方で印象を変える決算対策のテクニック
さて、利益と資金の関係で適用する決算対策が違うということ以外にも、決算対策を考えるうえで理解しておくべきことがあります。その内容をお伝えする前に、下記の3つの会社の利益の推移図をご覧頂けますでしょうか?
これら3社は、いずれもN期とN+1期の合計の利益が400であることが一致しています。しかし、次の点でことなります。
- A社は300から100へ利益が減少
- B社はずっと200で利益が一定
- C社は100から300へ利益が上昇
この3社を比べた時に、あなたは、どの会社にお金を貸したり投資をしたいでしょうか?
多くの方がC社を良いと判定されると思います(希に損益のブレの大きい仕事をされているヒトがB社が良いと仰ることがありますが)。A社が一番良いというヒトはいないと思います。
あなたがA社の社長だっだとして、B社やC社のような決算推移に見せるやり方があったら知りたくありませんか?
実は、こうした決算期毎の損益の見せ方を調整するために、冒頭で説明した各手法を組み合わせて適用するという発想も決算対策では重要なのです。
3.決算が解れば決算対策も分かる
なぜ、決算の見せ方を調整できるのかというと、そのヒントは「決算」の定義に隠されています。
Wikipediaによると次のように定義されていました。
決算(けっさん)とは、一定期間の収入・支出を計算し、利益又は損失(損益)を算出すること。
この定義の中の「一定期間の」ということが決算対策を考えるうえでの重要なポイントになります。
そもそも、継続企業を前提として会計のルールは出来上がっています。倒産することを前提にしていないといった方が分かりやすいかもしれません。倒産することを前提としていないのなら、わざわざ決算を会社が生まれてからなくなるまでの間にやる必要はありません。会社が、その目的を達成したら、その時に決算を締めて、元手からどれくらい利益が出たか(又は出なかったか)を計算し、残った分を元手を出したヒト達で分ければ良いだけだからです。
しかし、これだと何かと不便です。
国家はいつ利益に対して徴税出来るのかが解りません。投資家は途中で持分を売却しようにも、その時点での持分の価値を把握することが出来ません。
一定期間、すなわち1年に1回決算するという仕組みが生まれた背景には、こうした大人の事情があるのです。大人の事情で無理矢理付けた区切りが決算日なのです。
しかし、会計ルールは継続企業を前提としているので、決算日には、既に未来の費用や売上、更には支出や収入まで確定している場合があります。例えば、固定資産を購入すれば、耐用年数の間は減価償却費の計上が続きます。前金で代金をもらっているとすると、サービスの提供が終了すれば売上になることが決まっています。また、例えば今年度中に売上が上げられるものを、納品を決算日の翌日に遅らせれば、今年度の売上ではなく来年度の売上にすることだって出来ます。
例えば、売上を前倒し出来れば、当期の利益がそれだけ増えます。
一方で、費用を先送り出来れば、同様に、当期の利益を増やすことが出来るのです。
このように、会計上、決算日という区切りの前に発生させるか、後に発生させるかという判断を上手にしていくことで、A社の決算をB社やC社に近づけるように工夫する余地が出てくるのです。
3−1.当期の利益を増やして未来のことは後で考える決算対策
事業会社で、決算対策といえばコチラの対策のことを指すことが多いでしょう。
社長が掲げた、そうそう実現されることのない売上目標に足りていない!という状況で、それをなんとかするべく、普通なら来年の売上になりそうなものを、どーにかこーにか値引きするなり、接待するなりして当期に実現させるという対策です。とにもかくにも決算対策により売上を増やすというパターンです。
この対策事態は悪いことではありませんが、未来の売上を先食いしてしまので、抜本的なビジネスモデルの改革がないと、毎年同じパターンで苦しむことになります。そのことを忘れないようにして頂きたいと思います。
それでも社員の給料が出て家族が幸せに暮らせるならいうことはありません。何より、1度決めた目標は最後まで達成するべく努力をしなければなりません。そこがいい加減な会社は成長することもありません。
3−2.当期の利益を下げて未来の利益を上げる決算対策
我々、経理財務の専門家の腕の見せ所がコチラの決算対策です。
例えば、着地見込を作成したところ、当期の黒字化は絶望的という状況があったとします。そういう状況に直面したら、わたしは損出し出来るものがないかを必死に探します。当期中に落とせるものは落としてしまえば、来期以降に発生する費用の額を減らせるからです。
かつて日産自動車のゴーン社長(当時)は、日産リバイバルプランを発表し、巨額赤字の決算をしました。内容は翌年度以降に実施するリストラ費用を見積もってリバイバルプランを発表した期に計上したからです。翌年は大幅な黒字になって、V字回復という言葉がブームになりました。
ここまで読んで下さった皆さんは既にお気づきのとおり、この大幅な黒字は、前期の決算の時に、ある意味約束されていたのです。A社の状況にあった日産自動車をC社のように見せかけた、見事な決算といえるでしょう。
4.決算対策を行う時期
ここまで読んで、少なからず、粉飾決算の説明ページか?と思われている人がいると推察します。
安心して下さい。これは粉飾でも何でもありません。
なぜなら、決算対策は、決算期末日後ではなく、決算期末日前に完了させるものだからです。決算期末日後になると、決算はほとんど動かせなくなります。決算の成否は、決算日が来る前に決まっているのです(決算期末日後に売上を動かしたら粉飾ですよね。)。
ところが、多くの経営者が、決算期末日後に何か対策がないか?と探し始めるようです。その証拠にビズ部のメルマガ登録、小冊子ダウンロードのタイミングで一番多いのが、決算期末日の翌月です。
決算対策を決算期末日後にすると思っている人からしてみたら、ここまで説明した内容が粉飾決算と思われるのも無理がないでしょう。しかし、それでは、狙った決算を創るのは夢のまた夢です。
4−1.決算対策は遅くとも決算3ヶ月前から開始
具体的に開始する時期は、遅くとも決算3ヶ月前には開始しておく必要があります。3ヶ月前から開始すれば、大概の決算対策は間に合います。意のままに決算を操るには3ヶ月の時間が必要と覚えておいて下さい。
決算が締まる前であれば、例えば、得意先の了解が必要ですが、納品を遅らせることで当期の予定だった売上を来期の売上にすることが出来ます。多少値引きしたら、来期の分も当期に売上げることが出来るかもしれません。
このように、通常は得意先のコントロール化にある売上さえも、時間さえあれば、策を練ることで動かすことが出来ます。結果的に、右肩上がりの決算や安定した決算の形を創り上げることが決算対策です。
4−2.決算対策のキモは着地見込
決算対策のキモは着地見込です。決算対策のテクニックを沢山知っていても、着地見込がいい加減だと決算対策は失敗するからです。
例えば、利益を増やしたい、減らしたいというときに、基準となる数字がないとしたら、どうなるでしょうか?
いまある程度利益が出ているという着地見込があるとします。これを受けて黒字を維持しつつ節税したいと思って節税対策をした結果、赤字になってしまうことがあります。着地見込の数字から割り出した節税対策の数字だったにも関わらず、です。この結果をもたらす原因は紛れもなく、着地見込の精度の低さというわけです。
決算3ヶ月前になったら、確度の高い決算着地見込を作成する必要があります。9ヶ月分の正確な実績値が積み上がっていれば、それほど困難な作業ではありません。顧問税理士に毎月顧問料を払う理由は、正確な月次決算をしてもらうためと位置付けて、しっかりと仕事をしてもらえば良いだけです。
一方で、決算期末になると、急に数字がブレるという話も良く聞きます。そもそも着地見込を正確に出す月次決算のやり方になっていないからです。こうしたやり方では、決算対策どころか、節税対策も上手くいきません。月次決算風ではなくて着地見込に繋がる本当の月次決算を行う必要があるということです。そうなっていなければ何の為に顧問税理士に顧問料を払っているのか「再考の余地あり」といえるでしょう。
よい仕事をするためには、よい準備が必要です。つまり、よい決算対策には、よい着地見込が必要ということです。この認識をブレずに持ち続けることが月次決算作業のモチベーションになるはずです。
しっかりとやっていきましょう。
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5.利益と資金を増やしたい場合の決算対策
それでは、これから具体的な決算対策の方法について、紹介していきましょう。冒頭のマトリクスの図を頭に思い浮かべながら、いまどの部分の説明を読んでいるのかを見失わないようにお願いします。
まず、最初に利益も資金も厳しい状況の時に実施する具体的な決算対策について説明します。
決算対策マトリクスのこの部分には下記の具体的な対策があてはまります。
5−1.見込み案件の早期受注・早期納品・代金回収
利益も資金も厳しいので、追加の売上と代金の入金が必要な状況です。
見込み案件の中から、早期受注・早期入金が期待出来るものを洗い出しましょう。場合によっては、値引きなどの契約内容の譲歩をしてでも、受注と早期入金(出来れば前金)を実現する必要があります。売上を焦る余り代金回収が疎かになると、余計、資金的に苦しくなります。そのことを社内的に周知しておくことが必要です。
5−2.仕掛案件の早期納品・代金回収
もし、受注済で決算期末日も仕掛かり中になる予定の仕事があったら、予定を早めて完成させましょう。早く納品して売上を計上し、早期に代金を回収すれば、利益も資金も手に入れることが出来ます。
見込み案件の件も、仕掛かり案件の件も、案件管理がキチッと出来ていることが前提条件になります。管理のレベルが高くない会社には実現出来ませんので、日頃からしっかり案件管理をすることが、こういう時に役に立つということを知って下さい。
案件管理で利益と資金が作れるのです。
5−3.含み益資産の売却
含み益が発生している資産を売却することで、利益と資金を作り出すことが出来ます。
土地、建物や、有価証券がすぐ思いつくかも知れませんが、車両も減価償却が進行していくと含み益をもった資産になるのが普通です。
こうした事態に備えて、保有資産の時価の情報について、年に一度は確認するようにしたいものです。
5−4.生命保険の変換権の行使
生命保険の変換権を行使することによって、解約返戻金の発生により利益と資金を作り出すことが出来ます。また、解約返戻金は入りますが、解約ではありませんので、新たな保険契約を継続することが出来ます。
5−5.生命保険の年払いから月払いへの変更
いままで年払いで支払っていた生命保険契約があれば、月払いに変更しましょう。前年まで12ヶ月分を支払っていたのに、切り替えた年度は1ヶ月分だけ支払うことになりますので、利益的にも資金的には影響額が大幅に減額されることになります。
5−6.生命保険の請求停止
生命保険の請求停止手続をすることによって、保険料の支払いがストップします。その分費用が減少することによって利益が増えます。また、保険料を支払わないので、その分が手許資金として残ります。
6.利益だけを増やしたい場合の決算対策
次に、利益は厳しい状況ですが資金には余裕のある場合の具体的な決算対策について説明します。
マトリクスのこの象限に含まれる決算対策は次のとおりです。
6−1.見込み案件の早期受注・早期納品
利益は厳しいですが、資金には余裕があるので、追加の売上は必要ですが、代金の入金まで早める必要がない状況です。
見込み案件の中から、早期受注が期待出来るものを洗い出し、受注を目指す活動を始めましょう。値引きなどの契約内容の譲歩も検討対象となるでしょう。すぐに代金回収しなくて良いからといって、お金のない相手に販売してしまうと、将来の資金繰りが苦しくなります。与信管理をしっかりするように社内に周知することも忘れないで下さい。
6−2.仕掛案件の早期納品
受注済で決算期末日も仕掛かりになる予定の仕事は、予定を早めて完成させましょう。当期中に納品すれば売上を当期に経常することが出来ます。
このケースでも、案件管理のレベルが高ければ利益を作り出して、狙った決算を作り上げることが出来ます。
6−3.支払時の費用処理から資産処理への切替
例えば、いままで税務上の短期前払費用というルールを利用して、1年分の費用を支出時に全額費用(損金)として処理していた場合に、これを期間の経過と共に毎月費用化する処理に変えたとします。すると年度末に支払っている1年分の保険料のうち、1ヶ月分だけが費用として処理され、11ヶ月分は翌期の費用になります。
保険料の支払いはすることになりますが、費用の発生額は抑えることが出来るので、利益面の改善が図れることになります。
このように追加の支払いを伴う費用について、費用処理から資産処理に切り替えると、余裕のある資金を使って利益を改善することが出来ます。但し、会計には継続性の原則というルールがあるので、毎年処理方法を変更することは、原則として出来ないと考えて下さい。
6−4.支払済の費用から資産への振替
例えば、ソフトウェアの制作費を、これまで「会計上は」費用収益獲得効果が不明という理由で費用計上していたようなケースの場合、もし、費用収益獲得効果が明かであると判断できる要素があれば、資産計上へと処理を変更出来ます。既に制作費は支出済ですから追加の支出は発生しませんので、これ以上、資金の状況を厳しくすることはありませんが、利益だけを改善することが出来ます。
ソフトウェアに限らず、固定資産の制作費、建設費、製造原価は、こうした処理が出来る可能性があります。こうした処理が出来るものがないかを日頃から探しておくことが重要です。
6−5.社長借入金の債務免除
中小企業の場合、社長が会社に資金を貸しているのが普通です。これは会社側から見た場合、借入金になるわけですが、この返済について、社長が債権放棄をした場合、会社側には債務免除益という利益が発生します。
会社の資金に余裕があれば、貸した金は返して欲しいところですが、資金に余裕がなくて返済される予定もないのであれば、債務免除も一つの選択肢になります。この場合、資金のやり取りは一切発生しませんが、利益のみ計上されることになるので、利益が足りない場合には有力な決算対策の一つになるのです。
6−6.生命保険の払済化
生命保険契約には、「払済」という選択肢があり得ます。
生命保険を払済にすると、保険契約自体が解約返戻金相当額で評価しなければならなくなりますので、その時点で雑収入の計上が必要になります。しかしながら、時価評価されるだけで、解約返戻金が入ってくるわけではなく、資金は保険会社に置かれたまま、予定利率で運用されます。つまり、払済は資金面の改善策にはなりません。しかしながら、資金繰りに余裕があって利益が厳しい場合には、有効な決算対策になり得るのです。
7.利益を減らして資金を増やす決算対策
次に、最初に利益は余裕があるけれど資金的に厳しい場合の具体的な決算対策について説明します。この場合の対策は、節税対策とその他の対策に分かれます。先にその他の対策を説明してから、次項で節税対策を説明します。
7−1.新規受注案件の着手金(前受金)受取
利益には余裕があって、資金が厳しいなら、決算対策実施以降の受注については着手金(前受金)をもらうようにして下さい。それが、一時の決算対策ではなく、会社の仕組みとして普通になれば、資金に一生困らなくすることが出来るでしょう。
利益に余裕がある状態でなければ、実行すること出来ないので、いままさにこの時と思って、思い切ってトライしてみて下さい。
7−2.滞留債権の回収
資金的に厳しいだけなら、滞留債権を回収することで状況を改善することが出来ます。全く損益には影響がありませんが、資金には大きな影響があります。というのも、滞留債権が存在するということは、過去に売上を計上したことにより、その利益に相当する分の税金は支払い済になっているからです。つまり仕入代金以上の収支の悪化が発生している状況を、滞留債権の回収により、大きく改善することができるのです。
債権の管理状況がしっかりしていないと出来ないので、日頃からいつでも債権の状況が見られるようにして下さい。逆説的ですが、日頃から債権の状況を監視している会社は滞留債権の発生が確実に減りますので、この決算対策が使えない場合が多いです。
7−3.生命保険の契約者貸付
解約返戻金のある積立型の生命保険契約に、解約返戻金を担保に資金の借入ができる「契約者貸付制度」が利用出来るものがあります。これを利用すると、生命保険の契約はそのままですので利益には影響がありませんが、借入により資金だけを調達することが出来ます。
8.所得を減らして資金を増やす節税対策
次に、最初に利益は余裕があるけれど資金的に厳しい場合の具体的な節税対策について説明します。利益に余裕があって資金が厳しい場合は、節税対策が有効です。節税により、法人税等で流出する資金を減らせれば、それだけ資金繰りに貢献出来るからです。
8−1.債権・在庫の評価損による節税対策
滞留債権のうち回収可能性が低いと判断される債権については、貸倒引当金や貸倒損失が計上出来ないか検討しましょう。また、在庫のリストを精査したり、倉庫を実際に歩いて確認して、長期滞留中の在庫や破損している在庫について、評価損を計上出来ないかを検討しましょう。
このように含み損失を顕在化することで利益を圧縮し納税による資金流出を減らすことが出来ます。
8−2.不採算事業の整理・売却による節税対策
儲かっていない事業も、売ればお金になります。
ちょうど記事を書いている最中にNTTドコモが69億円で買収したらでぃっしゅぼーやを10億円でオイシックスドット大地に10億円で売却するというニュースが入ってきました。
69億円で買収したものを10億円で売るなんて!という意見もあると思いますが、一度払った69億円は戻ってくるものではありませんので、10億円「も」戻ってくると考えることも出来ます。
利益に余裕があって資金が厳しい場合には、このように不採算事業を整理・売却するというのは、一時的に損失が発生しますが、資金的にはプラスの効果が見込めるので、大アリなのです。
ドコモの場合、利益にも資金にも余裕があるので、資金繰りが苦しくて実施したわけではないでしょうが、節税対策という意味では大きなインパクトンある決算対策になっていると思います。
8−3.不要設備の売却処分による節税対策
不要設備がある場合は、処分してしまいましょう。効果は不採算事業の整理・売却の場合と同じです。不要設備の場合、中古の設備として需要がある場合の他に、スクラップ(鉄くず)としての価値があるという場合もあります。少し手間をかけて買取先を探すことで資金調達に繋げることが出来ますので、簡単に諦めずに探してみて下さい。
8−4.滞留在庫の売却処分による節税対策
販売不振の在庫があったら、売れる値段まで値下げをして売ってしまいましょう。利益の範囲内で実施すれば、黒字のまま資金を回収することが出来ます。納税資金の調達という意味では、非常に有益な対策となるでしょう。
8−5.未払費用の追加計上による節税対策
計上することが出来るのに計上漏れを起こしている未払費用がないかを確認しましょう。よくある計上漏れは、次のとおりです。
- 給料の締日から月末までの未払分の計上
- 固定資産税等の賦課方式の租税公課の未払計上
- 社会保険料の会社負担分の未払計上(社会保険の制度上、1ヶ月分は必ず未払が発生します。)
- 労働保険料の概算計上分の未払計上
これらを計上しても利益以外には全く影響がないので、安心して計上して下さい。
8−6.各種税額控除制度の利用
税額控除を受けられるものがないかを検討してみて下さい。
税額控除は資金を使わずに受けられるものではありませんが、決算3ヶ月前の段階で、既に支払い終わっている金額を基本として、それに僅かに支出を上乗せすれば税額控除が受けられるというケースはあり得ます。
わたしがセミナー受講性の方の節税チェックをしてきた中では、あと150万円給料を支払っていたら、500万円の税額控除が受けられたというケースがありました。決算期末が過ぎて申告書を作っている最中に気が付きましたでは間に合いませんので、着地見込を作成する際には、「税額控除が受けられるまで、あと幾らの資金が必要か」の試算も行うようにして下さい。
9.利益を減らす決算対策
利益は出ていて資金にも余裕がある場合には、利益を減らす決算対策を実施します。最初に、利益だけを減らして所得には影響しない、狭義の決算対策をご紹介します。
この決算対策は資金も全く使わない、頭しか使わない決算対策です。この対策を考える場合には、将来発生する可能性のある費用又は損失について、当期に計上する余地がないか?を考えることになります。
なお、この決算対策は継続性の原則の適用がありますので、やったりやらなかったりを繰り返すことは出来ません。実際に対策を実行する場合には、その点も考慮して、実行するかどうかを決めるようにしてください。
9−1.固定資産の減損損失の計上
もし、利益がかなり出ている状態だとしたら、好業績の影で埋もれている不採算事業がないかを確認してみましょう。将来撤退すら検討するような利益の出ていない事業や工場が存在する場合、それらに係わる固定資産の減損損失が計上出来るかもしれません。
もし、減損損失を計上する必要があるほど、営業キャッシュ・フローに問題があるということなら、減損損失を計上して、将来の費用を前倒しで当期に取り込むことが出来ます。これにより、来期以降の業績にも余裕が生まれることになります。
9−2.ソフトウェア開発費の研究開発費処理
ソフトウェアの開発費について、税務の基準で資産計上されている会社の場合には、ソフトウェア会計基準に準拠した形でソフトウェアの開発費を費用として処理出来る余地があります。
会計ルールと税法ルールを比較すると次の様な違いがあります。
会計上は将来収益獲得効果等が不明確な場合には、一括費用処理が出来ます。つまり、そのように判断出来る場合には、会計と税務で違う処理を行うことが出来るのです。上場しているITサービスの会社の多くが、会計上は費用処理をして税務上は資産計上しています。
なお、本件について、詳しく知りたい方は、IT企業は知っておきたいソフトウェアの会計処理の4つのポイントを一読下さい。
9−3.会計上の貸倒引当金の計上
貸倒引当金には、税務上、損金処理が認められる貸倒引当金と税務上、損金処理が認められない会計上の貸倒引当金があります。
税務上の貸倒引当金は、厳格な要件のもとで損金算入が認められています。会計上の貸倒引当金にも要件はありますが、税務上のそれよりは判断の余地があります。債権毎に個別に判断して、回収不能と判断されるものについては、会計上の引当金を計上しておくことによって、将来、税務上の要件を満たした場合に発生する費用を、当期の費用として処理することが出来ます。
9−4.賞与引当金の計上
賞与規定が存在していて、決算日時点において、賞与の支給対象期間が経過している場合には、その支給対象期間に対応した賞与の発生額を賞与引当金として計上することが出来ます。
賞与引当金の損金算入は、かつては認められていましたが、現在の税法では認められていません。あくまでも会計上の費用の見積もりとなります。但し、実際に賞与規定があるのであれば、本来は当期に発生している費用なので、計上するのが正しいということです。
税金計算用の決算書を作ることに馴れている方は、本来発生している賞与引当金という負債を認識していないということになります。これは逆にコワイことだと思って頂いた方が良いと想います。
9−5.退職給付引当金の計上
賞与引当金の何倍もコワイのが退職給付引当金です。なぜなら、金額が桁違いに大きいからです。
退職給付引当金も、かつては税法上、損金算入が認められていました。税法上、損金算入が認められている時代には、中小企業においても、決算期末日時点で自己都合退職した場合の退職一時金の金額を、退職給付引当金として計上していました。その前期と当期の引当額の差額が費用(損金)として処理されていたという経緯があります。ところが、税法上、損金算入が認められなくなると、あろうことか決算書から退職給付引当金を消し去ってしまう中小企業が続出しています(わたしのお客様には一社もありませんが、節税診断をしていると現実には取り崩してしまった会社の方が多いことに驚きます。)。
この一度消し去った退職給付引当金を復活させるのがこの決算対策です。前期末以前に発生している退職給付引当金相当額については、特別損失として計上する一方で、当期に増加した退職給付引当金については、販売費及び一般管理費の退職給付費用として処理することになります。
多額の費用を計上することになるので、相当利益に余裕がある時でないと復活させられるものではありません。しかし、一度、復活させておけば、将来の退職金支給時に発生する必要の大部分を前倒しで処理出来ることになりますので、会社の財務健全生の観点からは、是非とも取り組んでおきたい施策なのです。
社歴が長くて、退職金規程がある会社は、常に、その復活のチャンスを狙って欲しいと思います。
10.利益は出ていて資金にも余裕がある場合の決算対策
最後に、利益も資金も余裕がある場合の具体的な決算対策について説明します。ここは完全に節税対策のみがあてはまる部分です。なお、節税対策の全てを説明すると、それだけで巨大な記事になってしまうので、ここでは、その中でも決算対策として実施するポピュラーなものをご紹介したいと想います。
10−1.決算賞与による節税対策
決算期末日後1ヶ月以内に支出する賞与については、決算期末日までに支給対象者全員に金額を通知していることを条件に、その通知をした期の費用(損金)とすることが認められています。
しかしながら、賞与は支給日に在籍する社員のみに支給するという規定をおいている会社については、決算賞与を使うことは出来ませんので、事前に規定を変更し、決算賞与に限った特別ルールを設定しておく必要があります。
10−2.中小企業セーフティー共済加入による節税対策
利益にも資金にも余裕があって、中小企業セーフティー共済に加入していないなら、必ず加入して下さい。
利益が出て困っていると、生命保険の営業マンの紹介を受けることが多くなると思いますが、どんな激しい営業を受けても、まずは中小企業セーフティー共済に入ることをオススメしています。お金の溜まり方が一番良いのが中小企業セーフティー共済だからです。
10−3.生命保険加入による節税対策
中小企業セーフティー共済に加入済みなら、生命保険への加入を検討しましょう。
生命保険のことを嫌いな経営者の方も沢山いますが、勿体ないと思います。なぜなら、既に気が付いている方も多いかと思いますが、生命保険は決算対策の複数の場面で有効な解決方法になるからです。
とはいえ、この記事で初めて色々な使い方を知ったという人も多いでしょう。こうした活用方法を9割の経営者が知らないと言っても言い過ぎではないと思います。それだけ保険の使い手が少ないということです。
法人保険を上手に使えないということは宝の持ち腐れだという認識が必要です。是非、法人生保の使い手と組んで利活用して欲しいと思います。
なお、法人で生命保険の契約をする際に気を付けるべきポイントについては別の記事をご用意していますので、そちらでご確認下さい。
10−4.広告宣伝費、交際費等の前倒しによる節税対策
当期の利益にも資金にも余裕があるなら、翌期以降も同じ状況を作り出すために投資をしましょう。
投資といっても資産になるような投資は節税にはなりませんので、節税も考えるなら費用(損金)化できるもので考える必要があります(もちろん資産になる投資を否定するわけではありません)。
例えば、広告宣伝費を前倒しするということがあります。今まで一度も使った実績のない広告媒体やメッセージ、セールスレターなどを実験的に使ってみましょう。こうしたテストで悪い結果が出たとしても、それは今後、同じ失敗をしないように活かせていけば、より上手に広告宣伝が出来るようになります。また、交際費も決算期末日を跨いでから御礼の接待をするより、当期中に御礼の接待をしておくべきでしょう。
こうしたことを何年も繰り返せるようになると、ビジネスの回転数があがり、成長スピードも多いに上がると思います。
10−5.少額固定資産の購入による節税対策
何か購入して節税するとしたら、30万円未満のモノを年間予算300万円以内で購入するようにして下さい。中小企業の場合、この範囲内なら全額支出時に損金(費用)にすることが出来ます。
パソコンや机やイスなど、社員の環境整備費に回せると、来期以降の生産性の向上も期待できそうです。
10−6.中古資産の購入による節税対策
もし、車両等の高額のものを購入されるのであれば、中古の購入も検討してみて下さい。
但し、30万円以上の資産の場合、一度、資産計上したうえで、減価償却費を月割りで計上することになりますので、決算期末に近いところで購入したものは、その資産を使い始めてから、決算期末日までの月数分しか費用(損金)化することが出来ません。あまり大きな期待をすると、期待ハズレになりますので、そこも注意が必要です。
11.決算対策のまとめ
説明の最後に、決算対策とは何か?を定義したいと思います。
決算対策とは、決算の課題解決に適した取引を行うこと、及び、一つの取引に対して二つ以上の会計処理が認められている場合に、決算の課題解決に最も適した会計処理を選択することです。
わたしの提案した決算対策は、この定義に沿って考えられたものです。結果として、御社の資金と利益を、あなた自身の掌の上でコントロールすることを可能にさせていると思います。
具体的な施策だけなら、それほど難しくはない話だと思いますが、その対策が来期以降にどのような影響を与えるか?や、それを金融機関等の外部の利害関係者がどのような印象をもって受けとるのか?、又は、彼らに良い印象を与えるためにどうすれば良いのか?など、実行に移す際には、考えなければいけないことが沢山あるのが決算対策です。
困った時はプロにご相談下さい。
経営者の皆さんが、この記事を読んだ成果として理解しておくべきことは、次の5点です。
- 決算対策は節税対策だけではない。利益を増やす対策も決算対策である。
- 決算対策は利益と資金の両面から捉えて、最良の選択をする必要がある。
- 当期の決算対策によって、来期の決算が変わる。
- 決算対策は決算期末日より前に完了していなければならない。
- 決算は誰が組むかによって結果が違う。
では、いつもの合い言葉で終わりにしましょう。
キャッシュ・イズ・キング!!
山口 真導
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