今回は保険を使った節税策をご紹介します。保険と言いますと何となく胡散臭いイメージがあるかも知れませんが、保険による節税策は非常に有用です。とりあえず、小難しい話はあまりしないようにして、事例を使ってご説明していきます。
結論を先に言いますと、節税目的だけで保険に入るのはナンセンス!です。
(出所:1-4-4-1 生命保険で節税)
Contents
0.前提
(1)そもそも保険を使った節税とは
保険を使った節税のロジックを至極簡単に言いますと、積み立て分についても税務上の費用(以下、「損金」とします)にすることができるというものです。通常、銀行にお金を預けても損金になりませんが、保険であれば積み立てた金額の一部又は全部(※)を損金にすることができるのです。
※保険契約により、全額損金・1/2損金・1/4損金などのタイプがあります。
ただし、うまい話というのはそうそうないもので、保険を解約した際の解約返戻金については、税務上の収益(以下、「益金」とします)となり、課税されることになります。もちろん、預金を引き出しても益金とはなりませんよね。
つまり、保険による節税とは、支払時に損金とすることができることを指します。逆に、解約時は益金が増えますので、結果として税金が増えることになります。
(2)そしたら意味ないじゃん・・・
ひょっとすると、そう感じた方もいるかも知れません。たしかに、上図だけ見てしまうと、いつか取り戻される訳だから意味がないとお考えになられるのも納得です。ですが、「今」節税をしたいような場合には、保険は非常に有用な節税対策と言うことができます。
決算の駆け込みで新車を購入しても、取得価格の僅か1/72しか損金にできません。しかし、保険であれば、MAXで支出金額全額を損金とすることができます。この使い勝手の良さが、保険による節税の最大のメリットと言えるでしょう。
ただし、保険料の払込が終わって初めて損金にできますので、遅くても期末の1週間前、できれば2週間前には保険契約を交わしておきたいところです。また、支払った保険料を費用として経理しなければ(「損金経理」と言います)、損金にできませんのでご注意下さい。
(3)保険は経営上のジョーカー?
解約返戻金は益金となりますので、これまでコツコツと損金にしてきたものをドバッと吐き出さなければならなくなります。ただ、解約の時期は自分で決めることができますので、通常は退職金など大きな費用が出る時に合わせて保険を解約します。
そうすれば、解約返戻金のプラスと退職金のマイナスを合算することができますので、結果として税金は掛からなかったということもあり得るのです。
したがって、将来的に大きな費用が出る予定であるような場合、保険による節税は効果が高いと言えますね。業績が良い時に保険料を損金として節税し、いざ大きな費用が発生した時に保険を解約して利益を出す(費用を減らす)ことで、業績を平準化させる効果も出ることになります。
当社の山口は、「保険は経営上のジョーカーを持つのと同じ」と言っていましたが、この使い勝手の良さは、正にジョーカーと言えるでしょう。
法人保険について、もっと詳しく知りたい!という勉強熱心な方は、以下の記事もご参照下さい。
(4)保険で節税の注意点
保険料を支払わなければ1円も損金に算入できません。したがって、ある程度まとまったCASHを支払うことになります。財務的に苦しい場合は、無理に保険加入する必要はないでしょう。あくまで、利益が出ていて、ある程度CASHに余裕がある時に考える節税策になります。
1.保険節税事例
(1)前提条件
早速、事例と共に確認していきましょう。今回は、以下の法人を前提とします。
また、保険につきましては、プルデンシャル生命保険の「逓増定期保険PGFL」を題材とします。
上記保険に加入した場合の1年目から5年目までの推移は以下のようになります。
参考)解約返戻金受取時の仕訳
(現預金)5,513万円 (保険積立金)2,940万円
(雑 収 入)2,573万円
(2)保険加入前と後で法人税等・CASHはどうなるか
保険加入前と後で、法人税等・CASHがどのようになったのかを確認してみましょう。
法人税等:2,495万円-2,975万円=△480万円
CASH:4,638万円-4,525万円=+113万円
ということで、5年間で法人税等が480万円減少し、CASHが113万円増えるという結果になりました。ただし、保険加入前の状態では5年目の課税所得が△1,000万円となっていますので、将来的に、1,000万円×35%=350万円分の法人税等が少なくなる可能性があります(利益が出なければ絵に描いた餅ですが)。
仮に、翌年の課税所得が1,000万円だった場合、保険加入前の法人税等はゼロ、保険加入後の法人税等は350万円となります。そうしますと、保険加入前と後では次のようになります。
保険加入前と比べて、法人税等が130万円の減少に留まり、CASHについては237万円の減少となりました。つまり、CASHだけで見ますと「237万円損した」計算になります。
(3)保険加入前と後で課税所得はどうなるか
次に、課税所得に着目してみましょう。
保険加入前と後の課税所得は以下のようになります。
課税所得:7,133万円-7,500万円=△367万円
この部分が実際の保障部分の費用となります。もちろん、この金額は損金となりますので、法人税等128万円(367万円×35%)が少なくなっています。
また、各年の所得を見ると、保険加入後では毎年黒字が達成されています。5年目に△1,000万円という大きな赤字があったにも関わらず、解約返戻金の益金算入額2,573万円があったことにより、赤字を回避することができた格好になります。
このように、課税所得をコントロールすることができるのが、保険の魅力とも言えますね。
(4)まとめ
保険加入前と後とでは、見る時点によって損得が異なります。しかし、保険の課税関係が全て終了し、かつ、欠損金がない状況であれば、解約返戻金が100%以上でない限り、「必ず」保険加入後の方がCASHは少なくなります。
これは当然と言えば当然なのですが、保険には「保障部分」がありますので、その分に対応するCASHが減ることになります。
結論からしますと、法人税等の節税額は「保障部分×税率」になります。今回の例ですと、367万円×35%=約130万円になります。ただし、367万円の保険料支出がありますので、結果としてCASHは367万円-130万円=237万円のマイナスとなります。
2.保険で節税はアリかナシか
(1)結論
結論として、保険で節税というのはアリです。目先の利益を圧縮する効果は他のどのような手法よりも優れていますので、思わぬ利益が出たような場合は保険を検討してみた方が良いでしょう。
ただし、解約返戻率が100%に満たない場合は結果としてCASHはマイナスになります。くれぐれも、目先の節税のためだけに保険を選ばないようにして下さい。
(2)保険は財務対策としても有効
保険は節税対策でもあり、財務対策でもあります。資金がある時に、資金を無税でプールし、資金需要が発生した時に解約返戻金や契約者貸付によって資金を調達する手法です。
通常、利益というのは毎期継続して出るものではなく、黒字の年もあれば赤字の年もあると思います。そういった会社では、以下のように保険を使って利益を平準化させていくのは有用でしょう。
(3)再度、保険について考えてみる
保険は節税商品のように取り扱われている部分もありますが、一番の肝は保障です。例に挙げました保険の場合、万が一のことがあれば1億円の保険金が支払われます。特に中小企業の場合は、社長1人に頼っているような会社が多いでしょうから、この保障というものは絶対必要なものと考えられます。
したがって、保険を選ぶ際は以下のように順位付けて検討すると良いでしょう。
- まず保障ありき
- 副産物として、目先の節税
- 退職金など多額の費用計上に合わせて利益を平準化
とにかく節税のために!と考えてしまうと、営業マンの言いなりになってしまい、あなたの会社に合わない保険に加入してしまう可能性がありますのでご注意下さい。
ちなみに、プルデンシャル生命保険のパンフレットでは、以下のような資料がありました。
(逓増定期保険PGFLパンフレット P7より抜粋)
解約返戻率が93.7%で、損金算入した分の法人税等減少分を加味すると、実質返戻率は114.3%になるというものです。
数字自体、何のウソ偽りもありませんが、114.3%部分だけを強調してくる営業マンは注意が必要です(いないと思いますが)。
再度言いますが、解約返戻金が100%未満の場合、必ずCASH的にはマイナスになります。また、実際問題として、解約返戻率が最大の年に解約するとは限りません。前後1~2年はブレる可能性があるものとして、その辺も加味しておきたいですね。
(4)保険の解約について
営業マンは保険の解約を嫌います。理由は単純で、一定期間内に解約されると成績に響いてしまうからです。しかし、営業マンのために保険に入った訳ではありませんので、必要とあればいつでも解約を検討しましょう。
有事の際の資金需要に備えて保険に加入した訳ですからね。
3.さいごに
小難しい話はしないようにと心がけて書きましたがいかがでしたでしょうか。
保険による節税をまとめると、以下のようになります。
■メリット
- 目先の損金を増やせる
- 解約返戻金受取時まで課税を待ってもらえる
- 税率が下がった場合、「下がった税率×解約返戻金の額」分の法人税が確実に少なくなる
- 契約者貸付が受けられる
- 保障が付いてくる
■デメリット
- 解約返戻金率は100%未満であることが多い
- CASHで支払わなければならない
CASHがある状況であれば、保険による節税は検討すべき余地がある手法と言えます。ただし、逓増定期保険のように一定の時期に解約返戻金のMAXがきて、後は減少していくようなタイプの場合、解約時を誤ると大幅にCASHの受取が減ってしまいますので、プランニングの際は十分ご注意下さい。
【Q&A】
Q1.全額損金タイプはあるのか
あります。
ただし、そのようなタイプは解約返戻率が低くなっています。極端な話、掛け捨てであれば全額損金算入ですが、解約返戻金は雀の涙しかありません。
1/2タイプか1/4タイプを選択する方が多いみたいですね。
Q2.保険を解約しなくてもお金が借りられる?
契約者貸付という制度があります。これは、解約返戻金の●%まで貸付けますよという制度です。保険会社にもよりますが、90%程度のところが多いようです。1,000万円の解約返戻金がある状況でしたら、900万円まで借りられるということです。
ただし、保険会社により異なりますが、契約者貸付の利率は3%前後になります。通常の借入利率よりも少し高い印象でしょうか。
Q3.保険はどう選べば良いか
信頼できる営業マンから購入しましょう。あなたの会社に合った保険を提案してくれることが第一条件です。
Q4.経営セーフティ共済とどちらが良いか
あなたの会社の状況により異なりますので一概には言えません。
経営セーフティ共済は一定期間を過ぎますと解約返戻金が100%になりますが、万が一の保障がありません。また、月々の払込金額に上限があります。
そういった点を加味して、検討して下さい。
Q5.解約返戻金率が100%以上の保険はないのか
あります。
ただし、数は少ないです。保障内容が異なるケースもありますので、解約返戻金率だけでなく内容も踏まえて選択して下さい。
Q6.保険に入ることで確実に節税できる訳ではないのか
損金算入タイプの保険であれば、目先の法人税は確実に減少します。
また、将来的に法人税等の税率が下がることが予想されます。
そうすると、
- 税率が高い時は節税(保険料の支払で損金が増える)
- 税率が低い時に納税(解約返戻金の受取で益金が増える)
とすれば、税率差分は確実に節税できます。日本の法人税率は減少傾向ですので、これを加味すればほぼ確実に節税できそうですね。
例)
損金算入保険料:500万円(解約返戻金も同額とします)
保険料支払時の税率:35%
解約返戻時の税率:25%
500万円×(35%-25%)=50万円の節税
bizubu
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