急に大きな取引先の開拓に成功した。突然、高額の取引が成立した。こんな理由で突如として多額の利益が発生してしまうことがあります。そうした状態はラッキーな反面、多額の納税という問題を発生させます。
せっかく稼いだお金ですから、税金で流出させずに、自社の成長のために活用するか、自分のものにしたいですよね。
こういう時に役に立つのが決算期変更です。
Contents
0.決算期変更の概要について
決算期変更の概要について動画にしました。2分45秒の短い動画になっていますので、まずはこちらをご覧になって、決算期変更を実施すべきかどうかを検討下さい。
1.決算期変更による節税の概要とメリット
決算期変更をするとメリットがあるのは次の様な状況の場合です。
2月までの累計利益が250万円であるにも関わらず、3月だけで1,000万円の利益が見込まれる場合、3月決算のままにしておくと、
1,250万円×30%=375万円
の法人税等を支払うことになります。この金額は、通常月における利益の3倍であり、かなり税負担が重くのしかかります。ここで、2月決算に変更するとするとどうなるかというと、
250万円×30%=75万円
の法人税等を支払えばOKとなります。
決算月を変更したことで、
75万円-375万円=△300万円
目の前の納税を、300万円も減らせることになります。中間申告まで考えますと、1年以内に支払う法人税等の金額は450万円近く少なくなります。
決算期変更で年間450万円のキャッシュを産み出すことが出来るわけです。これは「やらない方がおかしい」かもしれません。
2.決算期変更は他の節税対策と組み合わせて実施する。
3月の利益1,000万円は来期に繰り越します。ということは、来期に何もしなければ、結局、法人税を支払うことになります。つまり、節税対策としての決算期変更は単独では意味がありません。我々専門家は、決算期変更をしたうえで、お客様の状況に応じて、50個ある節税対策の中から、最適なものをチョイスして提案します。決算期変更は、他の節税対策を実施するための前提条件になる時間的猶予を手に入れるための節税対策なのです。
しかし、実は、ここに大きな落とし穴があります。
節税した資金の使い道を節税に限定すると、気が付けば、また元の儲からない会社に戻ってしまう可能性が高いからです。
そこで、2つにパターンを分けて、決算期変更に組み合わせる施策について提案してみたいと思います。この2つのパターンのいずれか、または組み合わせで自分にピッタリあった対策を行って下さい。
3.成長志向の経営者向けの施策
成長志向の経営者にとって、決算期変更せず税金で資金を減らすという選択は、自社の成長資金をムダに流出してしまう愚行です。 節税して手元に残したキャッシュを投資に回せば、それだけ成長余地が生まれます。万が一、この投資に失敗したとしても結果的には「節税」になります。無駄遣いは禁物ですが、普段試すことを躊躇するような分野に対しても投資するチャンスとして活用して下さい。
決算期変更によって、手元にキャッシュを残すことと同時に、それを投資する時間も手に入れたので、投資の結果が良好なら、来期はその利益も含めて節税対策を考えることが出来ます。
何に投資するかについては、こちらの記事が参考になると思います。(全ての起業家に捧ぐ!売上を上げて黒字化するための全手法43+1)
4.現状維持で良い経営者向けの施策
4−1.役員報酬の変更
節税対策という意味では、決算期変更と役員報酬の改訂は基本の組み合わせです。
というのも役員報酬の変更には、厳格なルールが定められていて、決算期の途中での変更は原則として認められていないのです。もし、期の途中で役員報酬を変更した場合、その変更した部分の金額は損金不算入となってしまいます。
しかし、期の途中で変更できないだけですので、決算期を変更すれば、新しい決算期が始まることになるので役員報酬を変更しても、その全額を損金算入で変更することができます。
先ほどの例で確認してみましょう。
3月に発生する利益が1,000万円ありますので、このうち800万円を役員報酬(賞与)に充てたとします。そうしますと、以下のような課税関係になります。
3月決算の会社が3月に800万円役員報酬を増額すると、法人税率30%と計算すると240万円余計に税金を支払うことになります。この余計にはらう税金はそもそも利益にかかる税金に追加されることになりますので、615万円(=375万円+240万円)となります。
2月決算に変更したうえで、役員報酬を増額させれば、役員報酬の変更部分には追加の課税はないので、75万円の課税ですみます。
4−2.その他、よくある組み合わせ
今後、継続的かつ安定的に利益が見込めるのであれば、次の節税対策が効果的です。
4−2−1.経営セーフティー共済 (中小企業倒産防止共済)
掛金が全額損金算入可能。一定期間積み立てると全額戻ってきます。大口取引先が倒産した場合には、掛金を担保に運転資金の借入を受けることが出来ます。
4−2−2.生命保険
保険の種類によって損金算入される割合や処理の仕方が異なりますが、節税しながら簿外資産を積み立てることが出来ます。契約者貸付といって、解約返戻金を担保にして運転資金を借り入れることも出来ます。
これらの方法に限らず、決算期変更をすれば、新たな会計期間が始まるので、全ての節税対策が改めて実施可能になります。色々な組み合わせを検討してください。
5.決算期変更の仕方
決算期変更は、拍子抜けするほど簡単な手続きで行うことができます。
決算期変更の流れは以下になります。(3月決算の会社が2月決算に変更する場合の例です)
(1)2月中に臨時株主総会を開催し定款変更の決議を行う
(2)決算日を変更した旨を税務署に届け出る。
決算日は定款に記載されているため、株主総会において定款変更の特別決議を行う必要があります(会社法309条2-11、466条)。
株主総会というと大変そうですが、オーナー企業の場合は実質自分で決めて終わりになります。
最後に、異動届出書を税務署に提出すれば完了です。
当然、申告書の提出期限や納税期限は、新しい決算期に併せて変更になりますので、それを忘れないようにお願いします。
6.決算期変更について税務署はどう思っているのか?
決算期変更をオススメすると、よく「税務署の心象が悪くなるのでは?」と聞かれます。
ですが安心して下さい。決算期を変更してはいけないというルールはありません。実際、上場会社であっても毎年20~30社が決算期を変更していますので、そこまで珍しい話ではありません。
ただし、決算期を変更する理由が「節税のため」と正直に説明したら税務署をやる気にさせてしまう可能性があります。そこは税理士に良く相談して大人の対応をしましょう。
株主総会の議事録が存在しないなどの形式的な不備があれば、当然、問題なりますので、その点は充分にお気をつけ頂きたいと思います。
7.さいごに
決算期を変更するというのは、かなり驚かれたのではないでしょうか。実際、弊社の新人スタッフはかなり驚きますし、巨額の利益を計上して困っている社長に提案すると、もの凄く喜んで頂けます。
何となく定款変更や臨時株主総会を開くと聞くとハードルが高い気がしますし、その手続の結果、劇的に状況が変化するので、税務署に対して後ろめたい気持ちになる社長がいるのも無理ないと思います。
しかし、オーナー企業で臨時株主総会の開催も難しい話ではありませんし、目先に節税不能なほどの大きな利益が存在するのであれば、検討してもみる価値は大いにあると思います。
さて、決算期変更を含めて50個の法人税節税対策を無料公開している「全ての起業家に捧ぐ!法人税の全節税手法50とその手順【保存版】」は、毎日多くの方に読んで頂いています。この記事をベースに、法人税の全節税手法50とその手順をまとめたPDFも無料で配布しておりますので、ご興味がある方はこちらからご登録下さい。
【Q&A】
補足として、QAを載せておきます。
Q1.事業年度は1年でなくても良いか?
問題ありません。
事業年度は会社で決めるものですので、1日であっても10年であってもOKです。ただし、事業年度が終わると確定申告をしなければなりませんので、例えば1日を事業年度としていたら、毎日確定申告をしなければなりません。現実的ではありませんね。
また、法人税法では事業年度が1年を超える場合、1年ごとに区分した各期間を事業年度とすることとされています(1年未満の端数がある場合はその期間となります)。 例えば1年半を事業年度とした場合、最初の1年が1つの事業年度、残りの半年が次の事業年度となります。毎年事業年度の期間が変わってしまいますので、こういった会社はまずないでしょうね。
このような理由から、事業年度は1年である会社がほとんどなのです。
Q2.決算日は月末日でなくても良いか?
問題ありません。
上場会社でも決算日が末日でない会社は結構あります。例えば、自転車販売大手である「㈱あさひ」は、2月20日が決算日です。
Q3.決算を変更した期の確定申告について
決算期を変更した場合、その期間の末日から2ヶ月以内(延長申請をしている場合は3ヶ月以内)に確定申告書を提出します。今までとは日が異なりますので注意して下さい。
Q4.株主総会の招集はいつまでにするか
新しく決算月となる月の月末までになります(先述の事例ですと2月末日)。
また、株主総会の議事録・新定款は大切な証憑となりますので、大事に保管しておいて下さい。
Q5.異動届出はいつまでに出すか
条文上、「遅滞なく」、その変更前の会計期間及び変更後の会計期間を納税地の所轄税務署長に届けるようにとあります(法法15条)。遅滞なくと聞くとのんびりでも良さそうですが、税法では、「直ちに」「遅滞なく」「速やかに」の順となっており、遅滞なくは、基本的にはすぐ出して下さいねという認識です。
変に勘ぐられても何ですから、事業年度を変更したらすぐに出すのが望ましいでしょう。
bizubu
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