日本の会社のうち、86.4%に顧問税理士がいると言われています。これはすごい数字ですよね。新設法人などを除くとほぼ全ての会社に税理士がついていると言っても過言ではないかも知れません。
では、その会社さん達はどうやって税理士を選んだのでしょうか。これは統計を取っていないのでわかりませんが、多くは「紹介」なのではないかと思います。また、最近では格安税理士事務所も出現していますので、ネットで検索して安いところを選んだというケースも多そうですね。
しかし、本当にそれで良いのでしょうか・・・
税理士はある意味で目に見えないサービスを提供する業種ですので、最初は非常に不安があるかと思います。また、今の税理士を替えたいけど、どの税理士にして良いかわからないという声も結構聴きます。そこで、今回はこんな税理士を選びましょう!という内容をお話していきます。
とりあえず、
税理士を価格だけで決めるのはナンセンス!
と覚えておきましょう。
1.どんな税理士を選ぶべきか
(1)イケてる税理士を判断するためのチェック項目
何を持ってイケていると判断するのかはあなた次第ですが、税理士に行ってもらいた業務を、どれだけ的確に、かつ、納得のいく料金でしてくれるかが基準となるでしょう。
そのためにも、以下の項目をチェックして下さい。
- 顧客目線の認識を持っているか
- 節税対策はしてくれるか
- 役員報酬のシミュレートはしてくれるか
- 決算対策をしてくれるか
- 資金調達に強いか
- レスポンスは早いか
- 価格の提示は明瞭か
- 経営アドバイスはしてくれるか 等
ただし、全項目をカバーしているような税理士は、あまりいません。上記項目のうち、あなたにとって外せない項目について掘り下げて聞いてみるのが良いでしょう。
また、何でもできます!という税理士はあまりアテになりません。得手不得手についても確認するようにしましょう。
(2)得意分野の確認
同じ税理士であっても得意・不得意があります。大きく分けますと、以下のような括りになります。
- 中小企業の法人税・所得税・消費税など(中小規模税理士事務所に多い)
- 企業の合併、M&Aなど(大規模税理士事務所に多い)
- 相続・事業承継専門(中規模税理士事務所に多い)
この括りの中で、さらに細かく得意分野を尋ねていくのが良いでしょう。具体的には、扱う業種・業態、節税、資金繰り等になります。
(3)経営アドバイスはできるのか
意外と知られていませんが、経営に関するアドバイスを税理士に求めるのは非常に有益な手段だと思います。
- 現金を多く残すためにはどうすれば良いか
- 金融機関とどう付き合えば良いか
- 売掛金の管理をどうすれば良いか
- 適切な在庫量はどの位か
- 当社にあった節税策はどのようなものがあるか
- 財務体質を強化するには何をすれば良いか
- 各収益、費用の詳細な分析
など、経営にとって必要な情報を税理士から聞き出すことができます。ぜひ、これらを活用していきたいですね。
(4)小さな税理士事務所と大きな税理士事務所
税理士事務所は、1人でやっている小規模な事務所から、数百人単位で従業員がいる大規模事務所まで様々です小さな税理士事務所と大きな税理士事務所とでは受けるサービスも変わってきますので、それぞれのメリット・デメリットを確認しておきましょう。
税理士が1人でやっている事務所であれば、税理士自らが対応してくれることになりますので、サービスの質はある程度保たれます。ただし、1人の場合、レスポンスは悪くなる傾向にありますし、また、その税理士の知識が偏っている可能性もあります。
なお、小規模事務所であってもスタッフを雇用しているケースもあります。その場合、税理士自らが対応してくれるというメリットは薄くなります。
大規模事務所の場合、相応の税理士が所属していますので品質は高くなります。ただし、担当者については税理士かわかりません(基本、資格のない職員の方が多いです)。また、品質が高くなることから、価格も小規模税理士事務所と比べ高くなる傾向にあります。
良い悪いは担当者次第というところが、大規模税理士事務所の状況です。
(5)担当してくれるのはパートのおばちゃん?
巡回監査に来るのは、税理士や、税理士でなくてもある程度経験を積んだ職員になります。ですが、記帳代行は事務所で行いますので、パートさんや新入社員にしてもらうケースも多々あります。
もちろん、上位者がキチンとチェックしていれば問題ありませんが、そうでない事務所もあるかも知れません。記帳代行の品質についても聞いておいた方が良いでしょう。
(6)ブログをやっている税理士は信用できる?
最近ではブログ等で情報発信をしている税理士も多くいます(このサイトもそうですね)。税理士として情報発信している以上、誤りがある訳にはいきませんので、かなり神経を使って記事を書いていることと思います(このサイトも当然そうです)。
扱っているテーマについての知識や経験が無ければ情報発信はできませんので、少なくともその分野については、信用が高いと考えられます。1つの参考になりますね。
(7)税理士紹介会社を使うのはアリか?
税理士を斡旋する会社がいくつかあります。
あなたも、
「今の事務所より安くなります」
「顧問料が半年間無料です」
「あなたの会社の近くにピッタリの税理士がいます」
などと言った勧誘を受けたことがあるのではないでしょうか。たしかに、税理士のアテがない場合には、こういった紹介会社を通じて税理士を紹介してもらうのも良いかも知れません。
ただし、税理士紹介会社を経由する場合は次のようなデメリットがあることを認識しておきましょう。
- 紹介会社の担当によって、どんな税理士が紹介されるかが決まってしまう
- 登録している税理士の中からしか選べない(当然、登録していない人の方が多い)
- 地方の場合、対応していない可能性がある
税理士紹介会社を利用する場合には、ある程度の候補を出してもらうのが良いでしょう。その中から面談をして、あなたにあった税理士と出会えれば契約するのが良いと思います。
決して、安いからと言って飛びつかないようにして下さい。安物買いの銭失いになる可能性がありますから・・・
(8)まとめ
当たり前ですが、税理士の選び方に答えはありません。あなたの求めているスキルとあなたが支払うことができる金額の範囲内で、一番、条件の良い税理士を探すことになります。
- あなたが税理士に求めることを書き出す
- その分野を得意としている税理士を複数探す
- (一般的には、中小規模の税理士事務所が該当)
- 担当者はどんな人か
- 価格は概ね希望通りか
ポイントは、複数探してみるということです。実際に会って話をできるのであれば、会ってみた方が良いでしょう。税理士事務所は年間数十万円~100万円以上支払う大きな仕入先のようなものです。
「税理士なら誰でも同じでしょ」
と簡単に決めてしまわないように注意して下さい。また、税理士紹介会社を利用する場合は営業に惑わされないよう注意しましょう。
2.税理士の価格はどの位から?
(1)とりあえず税理士の価格体系を知る
税理士の価格体系は、月額●万円というものが多いです。売上の規模に比例して報酬が上がっていくシステムになっており、業種・業態によっても変動します(小売業など取引が多い業種は高くなる傾向にあります)。
一般的な税理士事務所では、次のような料金体系になっています。
◆法人の場合
◆個人事業主の場合
(出所:税理士ドットコム)
法人であれば月額2~3万円、個人事業主であれば月額1~2万円を最低額としている税理士事務所が多いようです。また、決算報酬は4~6ヶ月分が相場のようです。
これらの金額は基本的に、税務顧問契約(実質、税務申告のみをする業務)に係る費用になります。記帳代行や巡回監査を含めますと、これらの金額の倍くらいになるイメージでしょうか。
そうしますと、最低でも法人であれば年間50~60万円、個人事業者であれば年間40~50万円程度になるものと考えられます。
とりあえず、この価格をベンチマークにしておくと良いでしょう。
(2)顧問契約に含まれるもの、含まれないもの
税務顧問契約の場合、基本的には次のサービスのみとなります。
- 何かあれば質問に答える
- 何かあれば必要資料を送付する
- 税務申告をする
したがって、節税や資金繰りといった内容は顧問契約に含まれません。と言いますか、記帳を自社で行っている場合、まともな節税や資金繰りはすることができないと言っても過言ではないでしょう。
節税や資金繰りといったものは、日々の記帳をキチンとすることで実現できます。会計・税務の専門知識を有する社員がいない会社では、なかなか難しいと言えます。
もちろん、巡回監査を受けていればある程度はヘッジすることができますが、数時間の巡回監査で全てを確認することなどできませんので、完璧には程遠い内容となってしまうことでしょう。
また、記帳代行を依頼していたとしても、その内容をどれだけチェックしているかによって品質が異なります。月額数万円程度でしたらあまり期待することはできないというのが現実でしょう。
税理士事務所もビジネスです。フィーが高くない顧客に対して沢山のリソースを費やすことはできません。月数万円程度の報酬で節税や資金繰りまで求めるのは難しいと言えるでしょう。
(3)格安税理士ってどうなんだろう?
近年、月額顧問料が数千円という税理士事務所が出てきています。すごく魅力的に見えますが、決算料は別となり、かつ、記帳代行などを依頼すると通常の価格とあまり変わらなくなるようです。
たしかに、税務顧問というのは、平常月は実質的に何もしないというのが一般的ですので、数千円の顧問料でも問題はないでしょう。ただし、総額は同じと考えれば、見せ方の違いだけなのかなとも思います。
ちゃんとした税理士や職員が対応してくれるのであれば良いと思いますが、個人的な印象として、安さを売りにする専門業というのはあまり信用できない感じがしますね。
(4)まとめ
税理士の価格は業種・業態や売上の規模によって異なりますが、最低でも年間20~30万円程度、巡回監査や記帳代行を含めると40~60万円程度はかかると考えておきましょう。
税務顧問については、実質、税務申告だけの業務と考えると、結構割高に見えますね。ただし、税理士がバックについているという安心料だと思えば、納得できない価格ではないのかも知れません。
今後も、月額顧問料は安くなっていくのではないかと考えられますが、恐らく総額はほとんど変わらないと思います。ですので、月額ではなく総額で考えるようにして下さい。そして、その総額が受けるサービスに対する対価として見合っているかどうかを判断していきましょう。
3.そもそも税理士ってどんな人?
(1)税理士になるには4パターンある
税理士は全国に約75,000人います。そんな税理士になるには、大きく分けて以下の4パターンがあります。
①税理士試験に合格する
最も一般的なルートです。合格するためには、5つの科目に合格する必要があります。簿記論・財務諸表論が必須で、法人税法か所得税法が選択必修、残り2科目については自由選択(一部重複不可の科目があります)となります。
メインとなる税法は、法人税法・所得税法・相続税法・消費税法の4つですが、これらのうち法人税法か所得税法に合格すれば、残りは違う科目(住民税・事業税・酒税法・固定資産税・国税徴収法)にしても税理士になることはできます。
②大学院に行き、税法の免除を受ける
大学院で租税法を専攻し、審査に通ると税法科目のうち2科目が免除になります。つまり、簿記論・財務諸表論とあと何か1つ(別に法人税法・所得税法でなくてもOK)の科目に合格すれば晴れて認定合格となります。
③公認会計士or弁護士
公認会計士か弁護士資格を有している場合、税理士資格が付与されます。弁護士・税理士の方はあまりいませんが、公認会計士・税理士については相当数います。
なお、公認会計士は租税法という試験がありますが、税理士試験の内容と比較すると範囲が狭くなっています。また、司法試験の租税法は選択科目となっています。
④税務署の職員
税務署に一定期間勤めると、税理士資格が付与されます(「OB税理士」などと呼ばれます)。大抵は、税務署を定年退職して税理士開業というケースが多いため、高齢な方が多いのが特徴です。
(2)税理士はどんな税にも詳しいという神話
「税理士は全ての税に詳しい」という認識を持っている方が多いのではないでしょうか。上記(1)を読んで頂ければお分かりかと思いますが、どのパターンであっても全ての税について勉強している訳ではありません。つまり、全ての税に詳しいなどと言うのはちょっとしたファンタジーだと思っておいて下さい。
身近な例で言えばお医者さんでしょうか。内科・外科・耳鼻科・眼科・・・とたくさんの診療科に分かれています。同じように、税理士もある程度は細分化されていると言えます。したがって、「何でもやれます!」という税理士は信用できません。
(3)顧問税理士ってどんなことをしてくれるの?
契約内容にもよりますが、いわゆる通常の顧問契約で言いますと、以下のような内容になります。
- 何かあれば質問に答える
- 何かあれば必要資料を送付する
- 税務申告をする
ということで、税務申告をする以外は「何かあればする」という契約が顧問契約であることが多いです。
これにプラスして、次のようなサービスもあります。
・巡回監査
会社さんにお邪魔して、帳簿等をチェックする作業を巡回監査と言います。もちろん、全ての帳簿等をチェックするには相当時間が掛かってしまいます(=フィーが高くなる)ので、ある程度ザクッとしたチェックを行うことが一般的です。
・記帳代行
自社で帳簿を付けるのではなく、税理士事務所に記帳を代行してもらうことを記帳代行と言います。一般に記帳代行は、1仕訳○円と言った単位で行われることが多いようです。月間300仕訳あって1仕訳が100円であれば、3万円が記帳代行料ということですね。
・税務調査立会い
税務署の税務調査があった場合、税理士の立会いが認められています。税務調査は毎年必ず来るようなものではありませんので、通常の顧問料とは別に税務調査立会料を取っている税理士がほとんどになります。
(4)税理士は横柄な人が多いって聞いたことがあるけど・・・
税理士業界は、古くから規制に守られてきたため、あまりサービス業としての意識を持たれていない方もいらっしゃいます。税理士はいわゆる「先生業」ですので、横柄とまで言うのは何ですが、上から目線の大先生がいらっしゃることは事実です。
ただし、最近の若い税理士は税理士業がサービス業であるということを骨身に染みて認識していますので、そういったケースは少ないと思います。
(5)節税は税理士の業務ではない?
税理士の業務は税理士法第2条に掲げられています。具体的には以下の3つの業務が税理士の業務とされています。
- 税務代理(不服申立て等の代理・代行)
- 税務書類の作成
- 税務相談
これを見ておわかりの通り、節税や資金繰りは税理士の業務には入っていません(資金繰りは付随業務に含まれています)。ですので、税理士の顧問契約書に節税や資金繰りというものは入っていないのかも知れませんね。
税理士なんだから節税してくれて当り前!という考えは捨てましょう。
4.さいごに
税理士はサービス業です。ですので、杓子定規に一律●円ではなく、内容によって当然価格は変化します。
したがって、まず最初にあなたの受けたいサービスがどのようなものなのかを考える必要があります。そうしないと、税理士事務所の都合が良いような契約になってしまうかも知れません。
個人的には、税理士は数字のプロフェッショナルですので、ただ会計データだけを出してもらうことしかしないのは勿体ないと思います。
節税や資金繰りはもちろんとして、各種の経営に役立つようなデータを提供してもらうことこそが、税理士と契約する一番のメリットなのではないでしょうか。
最後の最後に、税理士選びに失敗したなぁと思ってしまった方達の事例を紹介していきましょう。結構笑いごとじゃありませんね。
- 事業内容を理解してくれていない
- 月額顧問料は安いが、コピー1枚でも料金を取られる
- 定期的に訪問してくれる契約だが、訪問してくれない
- 不要な保険を勧誘してくる
- 税務調査で調査官の言いなり
- 担当者がしょっちゅう変わる
- 消費税の中間申告で5万円取られた(1分でできる処理です)
こんなことにならないよう、最初にしっかりと話を詰めたいですね。
bizubu
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