経理とは何か?と聞かれても、具体的に分かりやすく答えることができないという方も多いことでしょう。
弊社も経理アウトソーシングの会社を始めて、2015年で第12期に入りました。ただ、恥ずかしながら、ケイリ、ケイリと毎日のように言いながら、経理について突き詰めて考えていなかったなぁと思い立ち、イチから経理について調べなおしました。今回の記事では、経理とはなにか?という基礎知識と、現実の実務と擦り合わせて分かりやすくお伝えさせて頂きます。
Contents
1.結論:経理とは何か
経理とは何か?ということを真剣に考えたことがないことを、反省しつつ調べてみました。
その結果をご報告します。
経理とは、少なくとも
- 財産、とりわけ債権の回収状況の監視
- 帳簿を付ける実務
- 代金(給与を含む)の支払実務
をする仕事というのが結論です。
この結論に至った経緯を、これから説明していくことにしましょう。
2.経理とは何か辞書で調べてみた
大辞林の第三版によると次のような意味でした。
けいり【経理】
( 名 ) スル
①財産の管理や会計・給与などに関する事務。 「 -部」
②筋道を通して治めること。 「之を以て天下国家を-するに足りて/百一新論 周」
②の意味を見ると、何か凄くカッコイイ仕事のような気がしてきましたが、この記事のテーマは①の意味に関する話です。
- 財産の管理
- 会計・給与などに関する事務
この二つをもう少し掘り下げて見てみましょう。
2−1.「財産」の「管理」とは何か
まずは「財産の管理」の意味について考えてみましょう。
財産について辞書で調べると次のとおりでした。
ざいさん【財産】
①個人や団体などのもっている土地・建物・物品・金銭・有価証券などの総称。資産。しんだい。 「 -を築く」 「私有-」
②〘法〙 一定の目的の下に結合した,現実的利用性あるいは換価性のあるもので,法律により保護または承認されているものの総体。物権・債権・無体財産権の類。
③その人にとって貴重な事柄。 「この経験を-とする」 「友人が最大の-だ」
いくら経理の仕事とはいえ、社員の友人関係までは管理出来ませんので、ここで重要なのは①と②です。①は有形の資産(≠有形固定資産)という意味で、②は債権などの無形の法的権利をという意味ですね。
こうなってくると全ての言葉の定義を調べたくなってきました。ということで、管理についても調べて見ましょう。
かんり【管理】
( 名 ) スル
①組織を取りしきったり,施設をよい状態に維持したりすること。 「ビルを-する」 「業務を-する」 「国立公園の-」 「品質-」 「健康-」 「 -者」
②私法上は,財産などについて,その性質を変更しない範囲で保存・利用・改良を目的とする行為。または,他人の事務について,その内容を現実化するための行為。 → 管理行為 ・ 事務管理 ・ 監理(補説欄)
この意味を重ね合わせると、財産の管理とは、
- 有形の資産を良い状態に維持すること
- 無形の法的権利を良い状態に維持すること
と考えて良さそうですね。
現実の経理実務と照らし合わせた時、物体としての有形の資産を良い状態に維持することが重要な会社には総務部門があり、そこまでは経理の仕事になっていません。一方で、債権の管理などは、経理の仕事であるのが通常です。(とはいえ、経理部門と総務部門が別々に存在する会社というと、それなり(30人規模以上)にはなるので経理部門が有形の資産の管理をしているということはありえます。)
債権も調べてみました。
さいけん【債権】
特定の人に対して,一定の給付を請求しうる権利。財産権の一。 ↔ 債務
債権=請求権、すなわち、お金を貰える権利です。
債権を良い状態に維持するとは、「回収可能性を下げないようにする」ということです。回収可能性が低い債権は、不良債権と呼ばれて、名前のとおり状態の悪い債権です。債権が不良債権にならないようにその回収状況を監視する仕事も経理の仕事というわけです。
2−2.「会計」とは何か
次に「会計・給与などに関する事務」の意味について考えてみましょう。
まずは、「会計に関する事務」から検討してみましょう。
「会計」が何か?と聞かれて、直ぐに答える自信が私にはないので、例によって辞書を引いてみましょう。
かいけい【会計】
①代金の支払い。勘定。 「お-をお願いします」②個人や企業などの経済活動状況を,一定の計算方法で記録し,情報化すること。また,その方法・事務および係の者。③経済状態。ふところ具合。 「 -は近頃豊かかね/吾輩は猫である 漱石」
なるほど、①代金を支払うことや②経済活動状況を記録し情報化することだそうです。②は帳簿をつける仕事と理解すれば良いと思います。これらの事務、つまり実務を司るということが経理ということですね。
次に、給与に関する事務ですが、こちらは、いわゆる「給与計算」と考えて疑いの余地はありません。
辞書では、これを経理の範疇に入れているのですが、こちらも現実の実務では、給与計算をやる部署は、有形の資産の管理と同様に経理部門ではなく、総務部門であることが多いです。
なぜなら、経理担当者が給与計算も支払もすることになると、例えば存在しない社員分の給与計算を行ってそのまま支払ってしまうということが出来てしまうからです。給与計算が総務で支払が経理だとすると、経理担当者が架空の社員への支払をしようと思っても、給与計算がなされないので、給与という形で着服は不可能です。
同様の理由で、帳簿を付ける実務と支払を行う実務も分けるべきというのが不正防止のための基本的な考え方です。そうなると帳簿を付ける経理部門以外に、支払を行うための財務部門が必要になります。
給与計算については100人〜300人規模の会社でも外注しているところが多いので、計算と支払は分離されているのが普通です。したがって、この経理の仕事から除外して別の仕事として定義したいと思います。しかし、財務部門まで備える会社ということになると、それなり(50人規模以上)の会社になりますので、経理が両方行っている会社の方が圧倒的に多いでしょう。
株式上場に向けた内部統制の整備をしていく時に、こうした不正防止の考え方で組織における仕事の割振りを行う必要性が出てきます。ですから、説明したような業務分掌の考え方は机上の空論ではありません。あなたも知っておいて損はない情報だと思います。
従業員の横領で倒産する中小企業もありますので、本当はやったほうが良い業務分掌です。お気を付け下さい。
2−3.改めて経理とは何か?
少し話が横道にそれましたが、上記をまとめると、経理とは、少なくとも
- 財産、とりわけ債権の回収状況の監視
- 帳簿を付ける実務
- 代金(給与を含む)の支払実務
をする仕事ということになります。
辞書を使って調べたうえで、実務と照らして修正をしましたの、経理の仕事はこれだと考えて頂いて問題ないでしょう。
3.蛇足:経理アウトソーシングとは
ちょっと本論とズレますが、経理を調べるついでに、私の本業である「経理アウトソーシング」という仕事についても考えてみました。
私は、上記の3つの要素の全てを備えているものだけを、経理アウトソーシングというサービスだと考えています。というのも、巷で経理アウトソーシングと表示しながら、実際は「2.帳簿を付ける業務」 しか提供していない会社が沢山あるからです。
帳簿を付けることより、ちゃんと代金を回収することと、ちゃんと取引先にお金を払うことの方が重要だという点について疑いの余地はないと思います。だから、この部分は自社でやるという考え方もあり得ると思います。しかし、帳簿を付けるところだけを外注した場合、残りの2つの業務はあなたの仕事になります。経理の3要素はそれぞれが密接に関連しているので、帳簿を付ける業務だけを切り離すのは、とても非効率なのです。
例えば、帳簿を付ける業務を外注していることを前提として、あなたが法人の銀行口座からキャッシュカードで資金を引き出して、取引先へ支払ったとします。帳簿を付ける側は預金通帳をみても、キャッシュカードで資金を引き出したことしか解りません。この取引を正確に記録するためには、キャッシュカードから引き出した後に取引先へ支払ったことが、帳簿を付ける業者に解るように「あなたが」してあげる必要があるのです。
経理アウトソーシングの場合には、同様のケースでは、あなたは取引先から来た請求書を経理アウトソーシングの会社にファックスなりメール添付なりで送信します。すると経理アウトソーシングの会社が振込登録をして、あなたがその内容に間違いがないか確認して承認します。経理アウトソーシングの会社はどこに何の内容で支払ったか知っているので何も言わずに会計処理を行えるのです。(請求書がそもそもあなたの会社ではなく弊社に届く会社もあります。この場合、連絡する手間すらありません。)
帳簿を付ける業者の中には、この取引を法人からあなたに対する貸付金として処理してしまうところも出かねません。なぜなら、「この支払は何ですか?」という質問が沢山出てしまうと、「あなたに」怒られる可能性があるからです。「お金を払って帳簿付けを頼んでいるのに、質問で俺の仕事を邪魔するな!」というお叱りを受けるのです。
貸付金として処理しても帳簿は作れます。その分、あなたの会社の利益は増えて法人税等の納税額が増え、同時に、あなた個人の負債が増えます。良いことは一つもありません。
私は経理アウトソーシングの会社を立ち上げる前の会社で記帳代行の仕事もしていました。真面目に突き詰めて仕事をすればするほど、お叱りを受けなければならない。時間は有限です。お叱りはご尤もなのです。この仕事はお客様の役に立たないと思いました。
帳簿を付ける仕事だけをやる会社の方が価格は安いです。しかし、それは当たり前です。やることが少ないのですから。価格が安い代わりに、あなたが充分な情報提供をしなければならないことを納得したうえで依頼するのなら、良いサービスなのかもしれませんが、それが現実に難しいからこそ、経理アウトソーシングという別のサービスがあることを是非知って頂きたいと思います。
4.まとめ
「2−3.改めて経理とは何か?」で示した3要素は、そこで「少なくとも」と書いたとおり、経理の核となる部分です。
しかし、現実の状況は、実は辞書に書いてある意味の全てでしょう。2〜3名の本業をするスタッフと1名の本業以外の全てをするスタッフという構成の事業所が、全体の9割を超えているからです。
改めて辞書の凄さを感じますね。
弊社の事務所には広辞苑が置いてあるのですが、これを税法の条文を解釈する際に利用したりします。税法の条文の中にある単語の意味を調べて、税法の条文を正しく理解するためです。立法担当者も広辞苑を紐解きながら条文を作るということだからです。
辞書を通じて、世の中のことが解るということは他にもありそうです。
次回の「イチから考えてみた」シリーズにご期待下さい。
山口 真導
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