平成27年10月1日より国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係の見直しが行われました。
この改正に伴い、こんな声が聞こえてきました。
「Amazonの電子書籍も消費税がかかるの?」
「Googleアドワーズも消費税取られちゃうの?」
「個人で海外サイトからダウンロードした音楽も消費税かかるの?」
私のところにもこんなメールがグーグルからきました。
「Google Appsは消費税の課税対象?そうすると、Googleアドワーズは??」
その答えを今から解説していきます。
Contents
1.消費税法改正の概要
国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税関係の見直しの対象となるのは、資産の譲渡等のうち電気通信回線を介して行われる著作物の提供その他の電気通信回線を介して行われる役務の提供になります(以下、「電気通信利用役務の提供」と言います)。
なんのことだかよくわからないかと思いますが、要するに「モノや形がないサービス」のうち、インターネット等を通じて行われるものになります。具体例としては、以下のものになります(グループ会社間の取引でも対象となります)。
これらに対して、主に以下の4点の改正がありました。
①電気通信利用役務の提供に係る内外判定基準の見直し
②課税方式の見直し
③国外事業者が行う消費者向け電気通信利用役務の提供に係る仕入税額控除の制限
④リバースチャージ
すごく簡単に言ってしまうと以下のような改正内容となっています。
もっと詳しくお知りになりたい方は、続きをご覧ください。
2.電気通信利用役務の提供に係る内外判定基準の見直し
(1)なぜ消費税の内外判定基準を見直すのか
消費税法では、国内取引は課税され、国外取引は課税されないという大原則があります。つまり、国内取引と判定されたら「課税」、国外取引と判定されたら「不課税(=消費税がかからない)」となります。
では、「電気通信利用役務の提供」の判定はどうしましょうか。条文によりますと、役務の提供を行う者の役務提供に係る事務所等の所在地(消令6-2)とあり、さらにこれを補足して、以下のようなお達しもありました(消基通5-7-15)。
法第4条第3項第2号《課税の対象》に規定する役務の提供が行われた場所とは、現実に役務の提供があった場所として具体的な場所を特定できる場合にはその場所をいうのであり、具体的な場所を特定できない場合であっても役務の提供に係る契約において明らかにされている役務の提供場所があるときは、その場所をいうものとする。
例えばAmazonは国外の法人です。Amazonで電子書籍を購入した場合、電子書籍と言う役務提供を行う事業者(=Amazon)の所在地は海外ですので、不課税取引となります。
しかし、例えば楽天で電子書籍を購入した場合、役務提供を行う事業者(=楽天)の所在地は国内ですので、課税取引となります。
全く同じ電子書籍を購入したとしても、Amazonと楽天で消費税分の差が出てしまうというのは、おかしいじゃないか!ということで、今回の見直しが行われることとなりました。当り前と言えば当り前の話ですね。
(2)電子通信利用役務の改正前・改正後の課税関係
電気通信利用役務の提供の課税関係については、上記(1)でお話したように役務提供を行う者の所在地で判定していましたが、改正後は以下のようになります。(出所:国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等について)
ポイントは②と④になります。いずれも、国外の事業者から電気通信利用役務の提供を受けた場合の取扱いになります。改正によって、不課税→課税になるんですね。
ちなみに、①③が課税→不課税となっていますが、元々輸出免税取引でしたので、消費税は免税でした。それが不課税になったので消費税がかからないという点では改正前と同じです(課税売上割合には影響しますが)。
3.課税方式の見直し
電気通信利用役務の提供には、事業者向けと消費者向けの2種類があり、いずれに該当するかによって処理の仕方が変わります。まずは、この事業者向けと消費者向けの違いを理解することから始めましょう。具体的には以下のようになります。 (出所:国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等について)
事業者向けか消費者向けかによって、課税方法が異なる点に注意して下さい。消費者の場合は、面倒なことができませんので簡潔になっており、事業者の場合は面倒でもやって下さいねということでリバースチャージ方式になっているイメージです。
以下、まとめの表もご確認下さい。
実務上、事業者向けかどうかは個々の案件ごとに判断していくイメージになりそうです。仮に、事業者向けであることが表示されていたとしても、事業者以外の者が申し込むことについて制限がないようなものは、消費者向けになりますので、ご注意下さい。
なお、事業者向け電気通信利用役務の提供を行う国外事業者には、当該取引がリバースチャージ方式の対象である旨の告示を行う義務があります。参考までに、グーグルアドワーズでは以下のように通知しています。(出所:AdWordsアカウントに関する税の変更について)
また、消費者向けサービスに該当するGoogle Appsについては、次のようなメールで通知がありました。
4.国外事業者が行う消費者向け電気通信利用役務の提供に係る仕入税額控除の制限
(1)消費者向けの処理方法
消費者向け電気通信利用役務の提供に該当する場合、当該取引は課税取引となります。今まで通りの金額であったとしても、平成27年10月1日以降については消費税を含む金額として、会計処理をします。
また、この際に、相手の国外事業者が登録国外事業者の場合は仕入税額控除の対象となり、登録国外事業者(※)でない場合は仕入税額控除を行うことができません。
※登録国外事業者とは登録国外事業者名簿に記載がある事業者を言います
なお、この名簿は随時改訂がされますので、国外事業者と電気通信利用役務の提供を行った場合には、必ず名簿を確認するようにして下さい。
以下、消費者向け処理の事例を確認していきましょう。
(2)消費者向けの適用要件
登録国外事業者から消費者向け電気通信利用役務の提供を受けた場合、仕入税額控除を行うことができますが、その際には帳簿・請求書等の保存を要件としています。要件を満たさない場合は仕入税額控除ができませんので、ご注意下さい。
・帳簿の記載事項
通常の記載事項+登録国外事業者の登録番号
・請求書等の記載事項
通常の記載事項+登録番号及び登録国外事業者が消費税を納める義務がある旨の記載
ただし、3万円未満の場合は請求書等の保存は不要であり、帳簿に通常の記載事項と登録番号の記載があれば問題ありません。
5.リバースチャージの適用を受ける場合の会計処理
(1)事業者向けの処理方法
事業者向け電気通信利用役務の提供に該当する場合、当該取引はリバースチャージの対象となります(「特定課税仕入」と言います)。ただし、当面の間、課税売上割合が95%以上の事業者については今まで通り不課税取引となります(課税売上が5億円超の事業者を含みます)。
また、そもそも納税義務のない事業者(免税事業者)及び簡易課税の適用を受ける事業者についても、リバースチャージの適用はありません。問題となってくるのは、課税売上割合が95%未満の事業者です。事例と共に確認していきましょう。
リバースチャージ方式が適用される場合、取引発生時に、「支払った金額×税率(現行8%)」分の仮払消費税等及び仮受消費税等を両建てで認識します。この時点では、損益に何ら影響を与えません。
次に決算時です。本問では電気通信利用役務の提供が「共通対応」ですので、個別対応方式又は一括比例配分方式により計算すると、以下のようになります。
仕入税額控除ができる金額:1,200×80%=960
仕入税額控除ができない金額(雑損失): 1,200-960=240
なお、個別対応方式を採用している場合において、当該広告宣伝費が「課税対応」の場合は全額控除することができますので、損失は発生しません。また、「非課税対応」の場合は全額控除することができませんので、全額が損失となります。
(2)事業者向けまとめ
そもそも、課税売上割合の関係上、全額を仕入税額控除できない場合にリバースチャージが影響してきますので、課税売上割合が95%未満であったとしても、その特定課税仕入が課税対応のものであれば全額控除できる(=損失が発生しない)こととなります。
リバースチャージ方式が適用される場合には、以下の表を確認しましょう。
なお、リバースチャージ方式が適用される最も一般的な取引は、Googleアドワーズかと思います。Googleアドワーズは商品販売等に直接要する広告宣伝費であることが多いと考えられるため、その場合は「課税対応」として全額仕入税額控除を行うことができます。
したがって、Googleアドワーズに係るリバースチャージ分については、損益は発生しないのが通常でしょう。ただし、会社のイメージ広告などの場合は共通対応となりますので、その辺の取扱いについては、税理士とも相談の上、決定されることをオススメ致します。
※自社所有の賃貸住宅の貸付を行っている業者の方の場合は、非課税売上に対応するので課税売上割合分しか控除出来ません(一括比例配分方式を使用した場合⇒個別対応方式の場合は非課税対応のものは1円も控除できません)。
(3)帳簿の保存要件
特定課税仕入に係る帳簿及び請求書等の保存については、国税庁のQ&Aにピッタリのものがありましたので、そちらを流用致します。(出所:国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税の見直し等に関するQ&A)
6.リバースチャージの具体的な計算方法
ここで1つ、リバースチャージの例題を作ってみました。申告実務の参考にして頂ければ幸いです。
7.消費税改正の総まとめ
まず最初に、お詫び致します。簡潔に記載すると言いましたが、簡潔とは言い難い内容になってしまいました。どうしても、消費税法の話が避けて通れませんので、消費税法に詳しくない方はかなりとまどった内容だったと思います。
本稿の最後に、いつも通りQ&Aを入れておきますので、消費税法の詳しい取り扱いなどはそちらを参照して頂けますようお願いします。
ということで、最後の最後のまとめといきましょう。
◆国外事業者から電気通信利用役務の提供を受けた
ここが全ての出発点です。今までは不課税だったものが課税取引となりました。
◆消費者向けの場合
強制的に課税取引となります。この際、登録国外事業者から役務提供を受けている場合は仕入税額控除の対象となり、登録国外事業者以外の場合は全額が控除不可能となります。
具体的には、Google AppsやAmazonなど一般消費者も利用するような電気通信利用役務の提供となります。
◆事業者向けの場合
課税売上割合が95%の場合は従来通り不課税取引となり、何ら影響はありません。しかし、課税売上割合が95%未満の場合には、リバースチャージ方式が適用されます。
具体的には、Google Adwordsが一般的でしょう。広告の内容によっては課税対応となり、全額仕入税額控除を受けることができます。
◆ポイント
そもそも電気通信利用役務の提供に該当するか、該当するのであれば消費者向けか事業者向けかを検討して下さい。消費者向けであれば、登録国外事業者からなのかどうか、事業者向けであれば、自社の課税売上割合が95%以上かどうかを確認することで、あとはそれに沿った処理をするだけになります。
最初のうちは慣れないと思いますので、税理士や税務署にご相談の上、処理をされるようにして下さいね。
長文にお付き合い頂きありがとうございました。
【Q&A】
本稿は読み易さを考えて例外的な題材や用語の説明などはカットしていますが、以下にカットした内容のうち主なものをQ&A方式で記載しておきます。本編だけでは解決できなかった場合や最終チェックにご活用下さい。なお、質問があった場合はQ&Aを更新していきますので、ご質問等ある場合はお気軽にご連絡下さい。
Q1.消費税の課税対象は
消費税は4つの要件を満たした場合に、課税されます。
・国内で行うものであること → 今回の改正に絡んだ部分です
・事業者が事業として行うものであること
・対価を得て行うものであること
・資産の譲渡、貸付並びに役務の提供であること
Q2. 資産の譲渡等と課税資産の譲渡等の違い
資産の譲渡等とは、資産の譲渡、貸付並びに役務の提供のことを言います。これに他の要件をクリアして消費税の課税取引となった場合、課税資産の譲渡等と呼びます。資産の譲渡等の時点では消費税の課税取引かどうかはわかりませんということですね。
Q3. 仕入税額控除とは
事業者が支払った消費税は、原則として全額還付されます。通常は売上に係る消費税を受け取り、その金額を国に納付する際に支払った消費税を控除して支払います。これを、仕入税額控除と呼びます。
Q4. 課税売上割合とは
通常の売上は消費税の課税取引となります。そのため、その課税売上に係る消費税については全額控除することができますが、非課税の売上については消費税を受け取っていませんので、それに対応する課税仕入は原則として控除できないこととなっています。
課税売上割合は、この課税売上と非課税売上との合計額(=売上合計)のうちに課税売上が占める割合になります。
Q5. 一括比例配分方式
課税仕入の合計額に課税売上割合を乗じて、仕入税額控除の金額を算定します。なお、課税売上が5億円以下であり、かつ、課税売上割合が95%以上の事業者については、課税仕入の合計額全額を仕入税額控除とすることができます。
Q6. 個別対応方式
課税仕入を、「課税売上に対応するもの(=課税対応)」「非課税売上に対応するもの(=非課税対応)」「共通して対応するもの(=共通対応)」とに区分し、以下の算式により仕入税額控除を計算します。
課税対応+共通対応×課税売上割合
個別対応方式の場合、非課税対応は1円も控除することができませんが、一般に非課税対応はあまりないため、一括比例配分方式よりも仕入税額控除が大きくなる傾向にあります。有利選択をすることはできますが、いったん一括比例配分方式にした場合は、最低でも2年間は個別対応方式により計算することができません。
Q7. 簡易課税制度
簡易課税制度は、課税売上5,000万円以下で事前に届出書を提出している場合に適用できる簡易的な方式になります。簡易課税制度ではみなし仕入率(40%~90%)により仕入税額控除を計算します。
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