上場会社以外の会社の株式には99.9%譲渡制限が付されています。
だから、何も考えずに譲渡制限を付ければ良い、、、。
このやり方は結論としては正解ですが、結果的に、株式会社のオーナーであるにも関わらず、会社法を全く知らない投資家兼経営者が、また1人生まれてしまうことになります。
ビズ部式会社設立では、こうした無知な経営者を作り出すのではなく、しっかりと地に足を付け100年持つ企業を産み出すために、しっかりとその意味について説明していきたいと思います。
Contents
1.結論:株式譲渡制限を必ず付ける。
会社を設立する際には、株式の譲渡制限を必ず付けるようにして下さい。
定款には次のように記載しましょう。
(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の株式を譲渡するには、株主総会(注)の承認を要する。
注:「株主総会」を代表取締役や、取締役会にすることも可能
2.株式譲渡制限が必要な理由
そもそも株式会社の出資持ち分である株式は、原則として自由に売買できることになっています。
なぜなら、株主は有限責任だからです。
有限責任なので出資した分しか損をすることがありません。その代わり、出資した資本は会社の財産になるので、会社から払い戻しを受ける形で簡単に回収出来ないようになっています。そこで株式の譲渡を自由にすることにより、株主がその出資を回収できるようにしているのです。
株式の譲渡を制限するということは、この出資の回収の利便性を下げるということです。なぜ、そこまでして株式の譲渡制限をするのかというと、株式の譲渡を自由にすると、将来、誰が株主になるのかが分からないからです。
元々、株式会社という制度は、不特定多数の顔の見えない株主から出資を得てリスク分散しながら事業を行うための組織形態です。しかしながら、株式会社と言えども、オーナー1人が出資して設立された会社、外部からの出資があったとしても、少数の知人友人からの出資があるくらいの会社の方が圧倒的に多いという現実があります。
こうした現実に即して考えた場合、株式が自由に譲渡される状況だと、ある日、突然、知らない株主(しかも反社会的勢力の株主)が表れて、経営が脅かされるということがあり得ます。こうした事態を回避するために、定款によって株式の譲渡制限を付けることが出来るようになっています。
1.株式会社は、その発行する全部の株式の内容として次に掲げる事項を定めることができる。
一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
二 当該株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
三 当該株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。2.株式会社は、全部の株式の内容として次の各号に掲げる事項を定めるときは、当該各号に定める事項を定款で定めなければならない。
一 譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 次に掲げる事
イ 当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨
ロ 一定の場合においては株式会社が第136条又は第137条一項の承認をしたものとみなすときは、その旨及び当該一定の場合(以下省略)
3.株式譲渡制限の本質
よく誤解されるところですが、定款で株式の譲渡を制限しても、モノとしての株式の譲渡は不可能ではありません(株券が発行されていて引き渡されているという前提が必要にはなりますが)。
制限されるのは、会社に対する権利行使です。権利行使とは、議決権の行使や配当を受けとることです。こうした権利行使が受けられない株式には価値はありません。結果として、モノとしても株式の譲渡を行うインセンティブがなくなるというのがこの制度の趣旨です。
しかし、万が一、モノとしての株式譲渡が先行して行われてしまった場合、会社は、その譲渡を承認しないのであれば、別の買取先を指定しなければならないことになっています。
譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。
つまり、株式の譲渡制限を付けたとしても、保有する株式を面倒な輩に譲渡するという「嫌がらせ」は可能です。指定された買取先は買取資金を用意しなければなりません。
このように株式譲渡制限は、株式会社の経営を安定させることが出来るとはいえ、完全なものではありません。あくまでも株式譲渡自由の原則のもと、一部、これを制限することによって作られている制度であるということを理解しておいて下さい。
4.株式譲渡制限のメリット
株式譲渡制限のメリットについて説明していきます。
4−1.取締役会・監査役の設置不要
株式譲渡制限を付けると取締役会を設置する必要がなくなります(必要がなくなるだけで設置しても良い)。取締役会がない場合には、監査役も不要になります。また、取締役会を設置する場合にも、監査役を設置せずに、会計参与で代替することも出来ます。
1.次に掲げる株式会社は、取締役会を置かなければならない。
1.公開会社
2.監査役会設置会社
3.委員会設置会社
2.取締役会設置会社(委員会設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。ただし、公開会社でない会計参与設置会社については、この限りでない。
3.会計監査人設置会社(委員会設置会社を除く。)は、監査役を置かなければならない。
4.委員会設置会社は、監査役を置いてはならない。
5.委員会設置会社は、会計監査人を置かなければならない。
あまり知られていないのですが、監査役は辞めさせることが難しいです。監査役を置かないということは、これから会社を設立するあなたにとって、地味に経営を安定させる要素になります。
4−2.取締役の任期を最大10年まで延長可能
取締役の任期は原則2年です。しかし、株式譲渡制限のある会社の場合、取締役の任期を10年まで延ばせます。
1.取締役の任期は、選任後二年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。ただし、定款又は株主総会の決議によって、その任期を短縮することを妨げない。
2.前項の規定は、公開会社でない株式会社(委員会設置会社を除く。)において、定款によって、同項の任期を選任後十年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することを妨げない。
取締役の選解任の手続漏れは結構起こりうることですが、任期を伸ばすことでそうしたリスクを下げる(?逆に忘れやすくなって上がるという考え方もできる)ことになるほか、取締役は任期満了に伴う改選の度に登記をしなければならないため、任期が長い方が登録免許税の負担が少ないというメリットがあります。
4−3.株券を不発行に出来る
株式の譲渡制限を付けるということは、株式の売買が頻繁に行われることがないということですから、株券の発行を株主から請求されるまでは不発行にできます。
1.株券発行会社は、株式を発行した日以後遅滞なく、当該株式に係る株券を発行しなければならない。
(第2項、第3項、省略)
4.前三項の規定にかかわらず、公開会社でない株券発行会社は、株主から請求がある時までは、これらの規定の株券を発行しないことができる。
株式の譲渡制限を付していない公開会社の場合には、遅滞なく株券を発行しなければならないのと真逆になっています。
4−4.株主総会の招集期限が短縮できる
株主総会招集通知の期限は、株式譲渡制限のない公開会社の場合は、2週間前までに行わないといけないとされていますが、株式譲渡制限の付された非公開会社の場合、1週間前までに短縮されます。
1.株主総会を招集するには、取締役は、株主総会の日の二週間(前条第1項第三号又は第四号に掲げる事項を定めたときを除き、公開会社でない株式会社にあっては、一週間(当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間))前までに、株主に対してその通知を発しなければならない。
(2項以下省略)
各株主が、顔の見えるもの同士であることを前提として、より機動的に株主総会が開催できるようになっています。
4−5.発行可能株式数の制限が無い
株式譲渡制限の付されていない公開会社の場合、発行済株式数の4倍までしか発行可能株式数を設定することが出来ませんが、株式譲渡制限の付されている非公開会社の場合、こうした制限がありません。
1.発起人は、株式会社が発行することができる株式の総数(以下「発行可能株式総数」という。)を定款で定めていない場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならない。
2.発起人は、発行可能株式総数を定款で定めている場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、発行可能株式総数についての定款の変更をすることができる。
3.設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の四分の一を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。
4−6.計算書類(個別注記表)の簡略化が可能
株式の譲渡制限を付けることにより、毎年の決算の際に作成する計算書類のうち個別注記表に注記すべき項目を減らすことが出来ます。
1.注記表は、次に掲げる項目に区分して表示しなければならない。
一 継続企業の前提に関する注記
二 重要な会計方針に係る事項(連結注記表にあっては、連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項)に関する注記
三 貸借対照表等に関する注記
四 損益計算書に関する注記
五 株主資本等変動計算書(連結注記表にあっては、連結株主資本等変動計算書)に関する注記
六 税効果会計に関する注記
七 リースにより使用する固定資産に関する注記
八 金融商品に関する注記
九 賃貸等不動産に関する注記
十 持分法損益等に関する注記
十一 関連当事者との取引に関する注記
十二 一株当たり情報に関する注記
十三 重要な後発事象に関する注記
十四 連結配当規制適用会社に関する注記
十五 その他の注記2.次の各号に掲げる注記表には、当該各号に定める項目を表示することを要しない。
一 会計監査人設置会社以外の株式会社(公開会社を除く。)の個別注記表 前項第一号、第三号、第四号及び第六号から第十四号までに掲げる項目
二 会計監査人設置会社以外の公開会社の個別注記表 前項第一号、第十号及び第十四号に掲げる項目
三 会計監査人設置会社であって、法第444条第3項 に規定するもの以外の株式会社の個別注記表 前項第十号に掲げる項目
四 連結注記表 前項第四号、第六号、第七号、第十号、第十一号及び第十四号に掲げる項目
五 持分会社の個別注記表 前項第一号及び第三号から第十四号までに掲げる項目
上記の条文の第2項の1号が非公開会社の注記事項に該当するものがどれかを表す条文です。
5.譲渡承認をする機関の決め方
最後に、株式譲渡の承認をする機関の決め方について、説明したいと思います。
繰り返しになりますが、株式の譲渡は原則自由です。そうしないと株主は投下資本の回収が出来ないからです。その例外として、定款によって株式譲渡に制限を付けることが出来るようになっています。「制限」ですので株式の譲渡が100%不可能な状態になっているわけではありません。株式会社の機関に株式譲渡の制限を解く権限を与え、そこで承認されれば、譲渡が出来るようになっています。そこで承認機関を設定し、問題ない株主に渡すなら譲渡出来るようにしています。(先にお伝えしましたが、厳密には会社に対して権利行使できるようにしています。)
その承認機関はどこにすると良いのかの話です。
5−1.代表取締役にする場合
代表取締役に譲渡承認を一任することが出来ます。株主総会や取締役会の招集が不要のため、もっとも手間のかからない方法です。
その場合、定款には次のように記載します。
(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の株式を譲渡するには,代表取締役の承認を要する。
5−2.株主総会
親族経営など、株主間でのつながりが強い組織では、新株主を株主総会で決めたほうが、後々のことを考えると納得感をもって新株主が受け入れられるということがあるかもしれません。
但し、株主総会の開催をするには招集通知の発送など手間と時間がかかります。モタモタしていて譲渡の承認請求を受けてから、2週間経過しても決議が行われない場合には、譲渡を承認したと見なす規定があることを忘れないようにしてください。
次に掲げる場合には、株式会社は、第136条又は第第137条第1項の承認をする旨の決定をしたものとみなす。ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、この限りでない。
一 株式会社が第136条又は第137条第1項の規定による請求の日から二週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第139条第2項の規定による通知をしなかった場合
二 株式会社が第139条第2項の規定による通知の日から四十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第141条第1項の規定による通知をしなかった場合(指定買取人が第139条第2項の規定による通知の日から十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第142条第1項の規定による通知をした場合を除く。)
三 前二号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合
わたしは、この規定があるので、株主総会を承認の場にすることには、基本的に反対です。会社法を熟知されている方が社内にいらっしゃれば別ですが、現実には対応が出来ないこともあり得ると思います。
この場合、定款には次のように記載します。
(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の株式を譲渡するには,株主総会の承認を要する。
5−3. 取締役会
取締役会を設置している会社の場合、取締役会を承認期間として定めることが出来ます。
この場合、定款には次のように記載します。
(株式の譲渡制限)
第○条 当会社の株式を譲渡するには,取締役会の承認を要する。
6.株式譲渡制限に関するまとめ
譲渡制限は必ず付けましょう。
譲渡承認機関は特に拘りがなければ代表取締役=貴方にしておきましょう。
山口 真導
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