決算公告の3つの方法に関する本音と建前

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株式会社を設立をするにあたって作成する定款に公告の方法を記載する必要があります。つまり公告の方法は会社を設立する前に決めなければならないことの一つなのです。

公告とは、普段良く目にする「広告」とは似て非なるもので、会社法で定められた重要情報について利害関係者に伝えることです。たとえば、毎年実施する決算、その他、会社合併、株式併合、解散など会社の組織変更等の内容については、利害関係者に周知するために「しなければならない」と会社法に定められているのです。

一番ポピュラーな公告が決算公告です。新聞で見たことがある方もいると思います。ですが、日本中の会社が新聞紙上で決算公告しているわけではありません。一番多いのは官報という国が発行する機関誌です。官報(カンポウ)なんてクスリですか?というヒトの方が多いでしょう。

ここでは、こうした状況を踏まえて、会社設立をするに際して、決めなければならない公告の方法をどう決めれば良いかについて説明していきたいと思います。

1.結論:公告の方法は「官報」を選択する

公告の方法は「官報」にしておきましょう。

選択肢は幾つかありますが、官報が無難です。格好付けたり調子に乗らないで官報。これが結論です。

わたしに官報を奨められても信用出来ないというヒトもいるかと思いますので、官報以外の方法も含めて説明してみたいと思います。

2.公告すべき情報について

公告方法を比較検討するためには、何が公告の対象になるかを知る必要があります。

会社法に定められている公告事項は次のとおりです。(参考にしたサイト:株式会社かんぽう

  • 合併に関する公告
  • 会社分割に関する公告
  • 組織変更に関する公告
  • 資本金及び準備金の減少に関する公告
  • 解散公告
  • 基準日に関する公告
  • 定款変更等通知公告
  • 組織再編等通知公告
  • 株券券等提出公告
  • 計算書類の公告(いわゆる決算公告)

これらの公告のうち、最初の5個の公告は必ず官報に公告しなければいけないことになっています。

【官報に公告しなければならないもの】

  • 合併に関する公告
  • 会社分割に関する公告
  • 組織変更に関する公告
  • 資本金及び準備金の減少に関する公告
  • 解散公告

決算公告を含む後半の5個については、会社が定款で定めた方法で公告すれば良いことになっています。

【定款でどこに公告するのか選択できるもの】

  • 基準日に関する公告
  • 定款変更等通知公告
  • 組織再編等通知公告
  • 株券券等提出公告
  • 計算書類の公告(いわゆる決算公告)

つまり、後半の5個を公告する場所をどこにするのかというのが、この記事で説明している内容です。

3.公告の方法の選択肢

公告の方法の選択肢は3つあります。

  1. 日刊紙
  2. 電子公告
  3. 官報

会社法939条

会社は、公告方法として、次に掲げる方法のいずれかを定款で定めることができる。

一 官報に掲載する方法
二 時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙に掲載する方法
三 電子公告

これら3つの公告方法の比較をまとめると、次のようになります。

比較表

以降は、株式会社の場合、どの会社も毎年実施しなければならない決算公告を例にして、それぞれの方法の違いを説明したいと思います。

会社法440条

第3項

1.株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。

(以降、省略)

3−1.日刊紙に決算公告する場合

あなたの会社も決算公告の方法として日刊紙を選択することは出来ますが、実際に日刊紙に決算公告するのは、上場会社かそれに準ずる大きな会社です。

一般的なメリットとしては、多くの方に見てもらえるということになりますが、上場していないあなたの会社の場合、多くの方に見てもらえることがデメリットになり得ます。日刊紙に公告するのは、多くの方に見てもらっても恥ずかしくない業績を上げられるようになってからでも遅くはありません。

もう一つのデメリットは、費用が高いことです。日経新聞に掲載する場合、設立直後の小会社であっても100万円程度の掲載費用がかかります。(日経新聞以外を選択すれば、もっと安い新聞もあります。)

日経新聞 法定公告料金表より抜粋】

広告料金早見表 日本経済新聞法定公告料金表 NIKKEI AD Web

3−2.電子公告

電子公告とは、決算書等をホームページに公開する方法のことです。

3−2−1.電子公告のコストが安いのは決算公告に限った話

自社HPを持っている場合、そこにデータを載せるだけなので、決算公告を載せるページを作成するのとデータをアップロードする手間はかかりますが、掲載料金が追加で必要になるわけではないので、もっともコストのかからない公告方法です。

但し、このコストがかからないというのは決算公告に限った話ですのでご注意下さい。

定款で定めた方法で公告するのは決算公告だけではありません。決算公告以外に4種類あることは先ほど紹介したとおりです。

決算公告以外の公告を電子公告で行う場合には、法務大臣の登録を受けた調査機関の調査を受けなければなりません(会社法941条)。この調査の費用が1回につき20万円ほどかかります。

会社法941条
この法律又は他の法律の規定による公告(第440条第1項の規定による公告を除く。以下この節において同じ。)を電子公告によりしようとする会社は、公告期間中、当該公告の内容である情報が不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置かれているかどうかについて、法務省令で定めるところにより、法務大臣の登録を受けた者(以下この節において「調査機関」という。)に対し、調査を行うことを求めなければならない。

その他の公告の際には調査費用がかかることを予め把握したうえで、それでも電子公告を選択したければ選択するということになります。

3−2−2.電子公告に見えないコスト「全文掲載」

「決算公告しかしないから調査費用は関係ない」と仰る方もいるのですが、そもそも決算公告すべき内容が、他の公告方法よりも詳細でなければならないということが見落とされがちな盲点です。

電子公告の以外の方法の場合は、「要旨の公告」といって要約版を掲載すれば良いのですが、電子公告の場合は「全文」といって、貸借対照表を詳細な勘定科目レベルで掲載する必要があります(会社法第440条第3項)。

会社法440条

第3項
1.(省略)

2.前項の規定にかかわらず、その公告方法が第939条第1項第一号又は第二号に掲げる方法である株式会社は、前項に規定する貸借対照表の要旨を公告することで足りる。

3.前項の株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、第一項に規定する貸借対照表の内容である情報を、定時株主総会の終結の日後五年を経過する日までの間、継続して電磁的方法により不特定多数の者が提供を受けることができる状態に置く措置をとることができる。この場合においては、前二項の規定は、適用しない。

4.(省略)

「百聞は一見にしかず」ということで、要約版と詳細版を実際に紹介したいと思います。

非上場会社で決算公告をホーム-ページでしている会社を探したところ、株式会社ワンダーライフという会社がありました(電子公告でググってみた中で非上場会社で一番上に出てくる会社です。)。

この会社の平成26年7月期の決算書(貸借対照表のみ)は下記のとおりです。(決算書全体はコチラでご覧になれます。)

ワンダーライフ様 平成26年7月期 貸借対照表

この決算書を、日刊紙又は官報に公告する場合には、以下のように要約表示をすることが認められています。

決算報告書 要約版

電子公告では、貸借対照表以外に、個別注記表も開示していますが、その公告も日刊紙又は官報掲載の場合は不要です。

どちらの開示があなたの会社にとって望ましいか、検討してみて下さい。

3−2−3.電子公告も大企業向きの制度

時々、ごく希に、HP制作会社を立ち上げた方やシステム開発会社を起業した方が、電子公告を選択しようとされていますが、わたしは全力で止めています。

自社のHPの一部に決算公告を掲載するということは、見込顧客や営業先に決算書をほぼ確実に見られるということです。起業して会社が大きくなって、同業他社に対して、自社の財務状況が優位性をもってみられるようになった後であれば問題ありませんが、そうなる前の段階では、これはリスクでしかありません。

一方で既に上場していて決算書を開示している会社にとっては、電子公告を採用しても開示する情報が増えるわけではありません。

結局、お金がかからなそうで、良さそうに見える電子公告も大企業向きの仕組みになってしまっているというのが実情です。

3−3.官報公告

最後にオススメの方法の官報公告を説明します。官報への掲載手続は簡単、かつ、料金が安いです。

色々な取次会社がありますが、基本的にどこに依頼しても次のような流れになります。

  1. 取次店のHPにアクセスしで雛形(ワードデータ)を入手
  2. それに基づいてデータを作成
  3. 取次店のHP上で申し込み手続を行いデータをアップロード
  4. 取次店から電話がかかってきて所在確認
  5. 仕上がった原稿案の確認
  6. 校了後、10日ほどで官報掲載

ポイントは、公告したい日から1ヶ月程度前から準備が必要ということです。明日公告を出したいと思っても無理です。

官報をご覧になったことがあるというヒトは少ないでしょう。見られる可能性が低いというのが官報のメリットです。さらに、中小企業が決算公告をする場合の最低料金は72,978円(税込み)で、他の方法に比べて安いのも良いところです。

デメリットについては、次の、決算公告を本当にするのか?の中で説明したいと思います。

4.決算公告を本当にするのかどうか

実は、会社法上、決算公告はしなければならないことになっていますが、実務的には、本当に決算公告を行うかどうかという問題もあります。実態としてほとんどの会社が決算公告を公開していないからです。

しかし、決算公告を行わない場合には罰則(100万円以下の罰金)があります(会社法第976条第2号)。

会社法976条(過料に処すべき行為)
(略) 次のいずれかに該当する場合には、百万円以下の過料に処する。

一(略)
二  この法律の規定による公告若しくは通知をすることを怠ったとき、又は不正の公告若しくは通知をしたとき。

この罰則がいつ発動するのか?それとも永久にしないのか??そこが問題です。

決算公告をする必要がない「合同会社」という会社形態が会社法に表れてから、数年経ちました。もしかしたら、数年後には、この罰則が適用される未来がやってくるかもしれません。株式会社にする必要がないのに、株式会社を設立しているケースが多くあります。国としては、決算公告をしたくないなら合同会社にすれば良いといえる状況です。

その未来がやってきたときに真っ先に罰則の対象になるのは、「官報」に決算公告をすることを定めている会社でしょう。

官報であれば、国が発行しているので、決算公告をしているかどうかを調べるのは簡単です。電子公告や日刊紙への公告の有無を確認するには手間がかかります。

官報公告を選択した場合には、そうした未来がやってきた時には、いち早く決算書の開示手続を行う必要があることを覚えておいて下さい。

そうしたリスクもゼロにしたいという方は、本当に株式会社を設立する必要があるのかどうかを再考して下さい。もしかしたら合同会社で充分ということもあり得ると思います。

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山口 真導

山口 真導

過払い税金対策専門税理士株式会社アカウンタックス
中小企業の資金繰りを改善するソフトウェアの開発に失敗し、自社の資金繰りがつかなくなる。その時、利益より資金が大事だとようやく気づく。以来、資金繰りの悩みを節税対策と銀行対策で解決する専門家として活動。中小企業経営者のお金の問題を他人事ではなく自分事として捉え解決している。著書に、起業5年目までシリーズで「資金繰りのキホン」と「節税のキホン」がある。

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