株式会社であれ、合同会社であれ、会社を設立するとなると定款を作成する必要があります。その際に、「会社の目的」をどのように決めるかは、最初に悩むところでしょう。
この記事を書くために改めてネット検索をしてみると、「定款の目的を設立後に変更すると、登録免許税だけで3万円かかる。」とか、「定款の目的は、出来るだけ範囲を広めに登記しておいた方が良い」とか、中には「40個でも50個でも登記できる!」という情報までありました。
これでは調べれば調べるほど、「とにかく沢山書いておこう!」となるのが必然です。
しかし、このやり方は間違いです。
そこで、私の個人的見解ではありますが、定款の目的に関して、まとめてみたいと思います。
定款の目的を決めるための指針の一つになれば幸いです。
Contents
1.定款に目的を記載する理由(建前)
ここからは少しお勉強タイムです。
定款に、なぜ目的を記載しなければいけないかというと、「取引の安定性」を担保するためです。
会社は、会社法において、定款記載の事業の目的の範囲内で行う法律行為についてのみ、権利能力を有することとされています(民法43条)。
会社が設立されたとしても、会社は目に見える存在にはなりません。
時々「見える」と仰る方がいますが、見えているのは、会社のビルや社長の顔であって会社が見えるわけではありません。それでも見えているとしたら、何か超人的能力があるか病気です(笑)。
唯一、会社の実態らしきものが見られるとしたら登記簿でしょう。
しかし、それすら会社の存在を記録しているデータベース上のデータでしかありません。
会社を設立すると法務局で登記簿謄本を取得することが出来ます。登記簿謄本とは登記簿のコピーです。会社の存在を記録するデータベースから、あなたの会社に関するデータを抜き出して印刷したものです。
定款の事業の目的は、この登記簿に記録されます。
つまり、登記簿謄本を見ることで、見えない存在である会社の実態を確認することが出来ると同時に、そこに記載されている事業目的をみることによって、その会社がどの範囲で権利能力を有するかを判断することが出来るようになっているのです。
登記簿謄本は誰でも入手し閲覧することが出来るようになっています。
こうして、この会社との取引が有効に成立するものかどうかを、自由に確認することが出来る体制が整備されているのです。
2.定款に目的を記載する理由(実際)
ここまで説明してきた内容は、会社法の理論の話であって、建前論です。
実際には、定款の目的による会社の権利能力の制限は極めて曖昧です。
というのも「取引の安全」ということでいうと、取引の相手方を保護するという意味においては、定款に記載されている事業目的の範囲外の取引であっても有効に成立させた方が、より安全だからです。いちいち登記簿謄本を見なければならないとしたら手間がかかって仕方がありません(本論とズレますが、現実には、この手間を惜しむことで代金の回収が出来ない事態が発生することが良くあります。つまり、本当は国が考えいているとおり、取引前に登記簿謄本を取得して相手方の状況を確認するべきなのです。)。
つまり、現実に定款の事業の目的が果たしている役割は違うところにあります。
2−1.登記簿謄本の提出が絶対に必要なケース
会社を設立して事業を開始すると、色々な場面で登記簿謄本の提出を求められます。
代表的なのは次のようなケースです。
- 銀行口座の開設時
- 銀行借入の契約時
- 大口取引先と取引を開始する時
- 補助金や助成金の申請をする時
- 許認可や事業免許取得の手続をする時
このケースをご覧頂くと、いずれも事業を行うにあたって重要なシチュエーションであることがご理解頂けるかと思います。
2−2.登記簿謄本を見る側は定款の目的から何を読み取っているのか?
ケースはそれぞれ違いますが、登記簿謄本を見る側が確認している事項は、いずれもほとんど同じです。
- その会社が本当に存在しているのかの実在性の確認
- 誰が経営しているのかなど人に関する確認
- 何をする会社なのかの会社の事業内容の確認
このうち、会社の目的は、(3)の事業内容の確認として欠かせない情報です。
やたらと沢山の事業の目的が書かれている登記簿謄本を見たら、あなたならどう思うでしょうか。
この質問の答えを考えて頂けば、この記事を書いた目的の9割は達成です。
無作為になんでもかんでも事業の目的に入っている登記簿謄本を見れば、「変な会社」「怪しい会社」という印象を持たれるだけです。
登記簿謄本を見る人は、次のような方々です。
- 銀行などの金融機関の職員
- 取引先の総務部員や信用調査会社の職員
- 補助金や許認可を出す役所の職員
このメンバーをご覧頂くと、保守的で事務的なイメージを持たれると思います。そうした方々の思考からすると、「変な会社」とか「怪しい会社」というのは、大きなマイナスイメージになる可能性があります。
定款に、無節操に事業の目的を記載することによって得られるあなたのメリットは、変更登記申請に必要名登録免許税3万円のコスト削減です。しかし、経営上重要なシチュエーションで悪い印象を与えてしまうリスクは3万円の比ではありません。
したがって、定款の事業の目的は、よく考えられた厳選されたものに絞った方が良いのです。
3.定款の事業目的を決める際の形式的な4のポイント
ここからいよいよ定款の目的を決める際の具体的なポイントを説明していきます。
全体では7つのポイントをお伝えしたいと思います。
そのうち、4つは形式的なポイントで3つは実質的なポイントです。
3−1.適法性
違法な活動は、事業の目的として登記することが出来ません。
たとえば「麻薬の製造・販売」を事業の目的とした会社設立は出来ません。
また、公序良俗に違反した内容も事業の目的として登記することが出来ません。
たとえば「愛人の斡旋事業」を事業の目的とした会社設立は出来ません。
会社法も法律ですから、当たり前といえば当たり前ですし、こうした目的で会社を設立をする方も少ないでしょうから話のネタとしてしっておけば良いでしょう。
3−2.営利性
会社はそもそも営利を目的としたものです。したがって、営利性のない事業目的を登記することが出来ません。
営利を追求しない組織としては、非営利活動法人(NPO)の設立が法律的に認められていますので、こちらを設立することになります。
3−3.明確性
取引の安定を図るという、そもそもの趣旨からして、事業の目的が誰が見てもわかる内容になっているかどうかは重要です。
「製造業」、「販売業」、「サービス業」などの標準工業分類のような表記でも登記が出来たとしても、不明確なことには変わりがありません。見る側から「変な会社」「怪しい会社」と思われないためには、明確にするにこしたことはありません。
3−4.具体性
抽象的な記載は出来る限り避けて、できる限り具体的に記載した方が良いでしょう。
私自身、明確性と具体性の違いについて、ハッキリと説明できないのですが、さきほど上げた、「製造業」、「販売業」、「サービス業」の場合であれば、「電子計算器の製造」、「オフィスで利用する什器備品の販売」、「催事会場における商品・サービスの説明の代行」、といったように、「○○に関する○○」というような形に、より具体的に記載した方が、読み手にとって利便性の高い情報になるでしょう。
会社法が施行される前の商法の時代には、具体性が厳密に審査されていました。とはいえ、一律に定めた明確なルールがあったわけではなく登記官のセンスとか好みの問題も多かったように思います。
平成18年5月の会社法の施行後は、具体性の審査を行わないことになっていますが、読み手に好印象を与えるためには、従来通り、具体的な事業の目的の記述を心がけるに越したことはありません。
4.定款の事業目的を決める際の実質的な3のポイント
ここからは実質的な3つのポイントを説明します。
4−1.将来の事業展開(関連多角化)を見据える
いまやっていなくても、事業の目的に入っていても違和感のないものがあります。
また、通常、事業を展開していく中で、関連多角化として進んで行くであろう方向性というものがあるのも事実です。
私が個人的経験に基づき、あらかじめ用意しておいても違和感がなく、かつ、逆にそこに備えていることについて、膝を打って納得出来る事業の目的をご紹介すると次の目的になります。
- (現在行っている事業に関連した)派遣事業
- (現在行っている事業に関連した)人材紹介事業
- (現在行っている事業に関連した)生命保険販売代理業
- (現在行っている事業に関連した)損害保険販売代理業
これらはいずれも「現在行っている事業に関連した」という前書きを入れたとおり、既存事業に関連して実施する可能性のある事業です。
上記のうち、1と2については、自然に発生していく可能性のある事業領域です。
また、3と4については、既存顧客に対するアップセル(追加販売)の為の商品として取扱を開始することが良くあります。取引先が増えてきた場合に、販売促進のためのコストがかからない事業として取り組み易い事業なのです。
これらについては、現在やっていなくても、事業の目的に入っていた方がちゃんと考えているように見えて、「少なくとも私は」好印象です。
是非、「将来実施する可能性があるか検討のうえ」定款の目的に追加をご検討下さい。
4−2.許認可・免許との適合性は厳密に
実は、上記の4つはいずれも事業を開始するにあたって、定款に目的の記載が必要な事業ばかりです。
人材派遣業や紹介業の許可を取るためには、申請段階で定款の事業の目的に記載がなければ形式要件不備のため、許可が取れません。また、生命保険の代理店登録をする場合や損害保険の代理店登録をする場合にも、定款の事業の目的の中に記載があるかどうかの確認があるのが普通です。したがって、あらかじめ入れて置くことで、思い立ってからスムーズにこれらの事業を起ち上げることが可能になります。
また、許認可や保険会社への申請の際には、細かな文言が定められている事がある点には注意が必要です。
指定された文言通りでないと審査が通らないと言われてしまい、その為に事業目的の変更登記申請手続を1度実施したにも関わらず、すぐに新たな変更登記申請手続が必要になるということが起きることがあります。
あらかじめ申請先にどのような文言で登記するべきかを確認する手続をとることを、強くオススメします。
4−3.数を増やし過ぎない
定款の目的をやたらと沢山書くことの弊害はご理解頂けたと思います。 基本は、実際に行う事業のみ書くということです。
そうは言っても、将来の夢を考えると幾つか追加したいということはあると思います。
目的の数とは少し違いますが、一つの指針として事業の目的の登記簿謄本における枠のサイズについてお話したいと思います。
1ページ目に事業の目的が収まるのは、1行32文字(行頭の番号は除く)で30行程度のようです(商号も本店も移転していない場合の履歴事項全部証明書の場合。これらに変更がある場合は、5行程度減らさないと1ページには収まりません)。このスペースがマックスではないかと個人的には思います。
これを超えると定款を確認する側は、ページをめくって内容を確認することになるので、「多いな」という印象を与えてしまうと思います。
5.定款の事業目的のまとめ
会社設立のハードルが大幅に下がった結果、やたらと沢山の事業目的が記載されている登記簿謄本を見ることが多くなりました。特に、低価格化により、プロの指導がなされず、目的変更の登記申請のコストばかり気にして、定款の目的を決める傾向が原因だと感じています。
どういう方法で、いくらのコストをかけて会社を設立するかは、起業家の最初の経営判断です。
これをやったら相手がどう思うか? どこにお金をかけるのか? を考えるのは商売・経営の基本です。
会社設立から経営なんだ!と強い意識で取り組んで頂きたいと思います。
定款の目的は量ではなく内容で勝負しましょう!
私も全力支援させて頂きます。
※この記事は2014年9月時点の法令等に基づき記載しております。
山口 真導
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