資金繰り表の作成方法と分析手法(事例付)

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 財務会計では、貸借対照表や損益計算書を作成します。これらは経営にとって当然に有用なものなのですが、1つ大切なものがありません。その大切なものとは、

 資金繰りに関する資料になります。

 利益がどんなに出ていてもお金が無ければ企業は倒産してしまいます。逆に、どんなに赤字だったとしてもお金があれば企業は倒産しないものです。キャッシュは企業の生命線です。

 今回の記事では、その生命線であるキャッシュを、資金繰り表を使って管理していくための手法をご紹介していきましょう。

1.What is 資金繰り表?

(1)資金繰り表を作成するケース

 どのようなケースで資金繰り表を作成するのでしょうか。大きく分けると以下の3パターンになるかと思います。

① 預金口座が複数ある

 預金口座が複数ある場合、口座間で資金移動が生じるケースがあります。資金移動をし忘れたことによって、決済ができなかったというようなことにならないよう、資金繰り表を作成します。この場合、日繰りの資金繰り表(毎日の入出金予測を記帳)を作成するのが一般的です。

② 入出金のズレが大きい

 信用取引をしていて、売掛金の回収期間と買掛金の決済期間とに乖離がある場合、損益計算書の利益と現預金の収支とが一致しません。いわゆる、利益は出ているのに資金がないような状態です。この場合、日繰りの資金繰り表の他、3ヶ月~1年程度の月次資金繰り表(毎月の入出金予測を記帳)を作成するのが一般的です。 

③ 資金の借入時

 銀行から融資を受ける場合、必ず将来の収支見込みを作成することを要求されます。借入をすることによって、どういった投資をし、その投資をどう回収していくかを、資金繰り表を使って表現していきます。この場合、半年~1年程度の月次資金繰り表を作成するのが一般的です。 

④予算案

 予算を採用している会社の場合、資金繰り表も作成するのが一般的です。1年予算・中期予算・長期予算など会社によって様々あると思いますので、資金繰り表もそれに合わせて作成します。

(2)損益計算書上の利益と資金収支は一致しない

 黒字倒産という言葉があります。黒字倒産とは、損益計算書上は黒字であるのにキャッシュが回らなくなって倒産してしまうという状態です。

 これは、損益計算書上の利益にはキャッシュの裏付けがないということが原因です。例えば、以下のような取引があったとしましょう。

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 損益計算書では60万円の利益が出ているにも関わらず、40万円の資金減となっています。こういったことを続けてしまうと、「支払ができない=倒産」となってしまうかも知れません。なお、資金繰りに関する詳しい記事は、以下をご参照下さい。

 全ての起業家に捧ぐ!キャッシュフローを劇的に改善する51の全手法

 

 基本は、収入はできるだけ早く・支出はできるだけ遅くです。その方向にシフトしていくためにも、ぜひ、資金繰り表を作成しましょう。

(3)資金繰り表を絶対に作らなければならない会社とは

 資金繰り表はキャッシュが潤沢であれば特に作らなくても良いと思います。キャッシュが潤沢であれば、損益計算書の利益だけを追っていても問題ありません。

 しかし、キャッシュがあまりない会社の場合は、売上金の回収スパンと仕入の支払スパン等次第で、資金ショートしてしまう可能性があります。

 予め資金ショートしそうな時期がわかっていれば、その前に借入をするといったように、手の打ちようがありますので、あなたが、資金繰りが思わしくないと思われているのであれば、資金繰り表は必ず作成しましょう。

(4)資金繰り表の確認ポイント

 資金繰り表をただ作るだけでは意味がありません。資金繰り表を参照して、次のチェックポイントを確認していきましょう。

① 営業収支がマイナスになっていないか

 最重要項目になります。賞与の支払や月ズレなどの特別な要因がなく営業収支のマイナスが続いているのであれば、ビジネス自体に問題がある可能性があります。

② 現預金残高は月間平均粗利益の3ヶ月分以上あるか

 こちらの記事にも書いてありますが、現預金残高が月間平均粗利益の3ヶ月分以上あれば、資金的には問題ないと言えるでしょう。現預金の予想フローだけではなく、予想残高も合わせて確認するようにして下さい。

③ 営業収支よりも借入金返済の方が多くなっていないか

 上記①で営業収支がプラスだったからと言って安心してはいけません。借入金がある場合、借入金の返済についても営業収支に加味して計算するようにしましょう。営業収支で借入金の返済が賄えているのであれば、とりあえず安心ですね。

④ 設備投資が資金繰りの足を引っ張っていないか

 多額の設備投資を行う場合、その投資見合が利益に反映するかのシミュレートをする必要があります。長期の資金繰り表を作成する場合は必ず取り入れましょう。

2.パっと見てわかる資金繰り表を作成するための基礎知識

(1)資金繰り表作成のルール

 資金繰り表には、現預金の収支を記帳していきます。現預金の裏付けがない収支は含めませんのでご注意下さい。お小遣帳のようなイメージをして頂ければ分かり易いかと思います。

 なお、あまりたくさんの項目を入れると分からなくなってしまう可能性がありますので、できる限り項目は少なくするようにして下さい。どうしても必要だと判断したら、後から足していくようにしましょう。

 収支を出すには以下のルールを把握する必要がありますので、まずはこのルールをしっかりと頭に入れてから、読み進めていって下さい。

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(2)資金繰り表上の収入に含まれるもの

 収入のメインは、もちろん売上収入です。現金売上があったのであればその場で収入になります。それにプラスして、売掛金や受取手形の入金があった場合も売上収入になります。

 また、借入金があった場合には、借入金収入を記帳しましょう。

 その他の収入というのはあまりないと思いますので、収入については、「売上収入」、「借入金収入」と「その他」で良いでしょう。なお、売上の入金状況を細かく分けたい場合は、相応の項目を増やせばOKです。

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(3)資金繰り表上の支出に含まれるもの

 支出のメインは、仕入支出と人件費支出になるかと思います。現金仕入があったのであればその場で支出になります。それにプラスして、買掛金や支払手形の出金があった場合も仕入支出になります。また、人件費支出については社会保険分も含めて計算するのが一般的です。

 また、借入金の返済や固定資産などの設備投資があった場合も出金となります。設備投資はあまりないかも知れませんが、借入金の返済は毎月あるのが一般的ですよね。

 支出については、その他のものも結構あるでしょう。ただし、あまり細かく分けるのではなく、「仕入支出」・「人件費支出」・「借入返済」・「設備投資」以外に、1つか2つ(まとめて「その他」でもOK)で良いでしょう。

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(4)何はともあれ資金繰り表を作ってみよう

 資金繰り表では、収支を記帳して現預金残高を計算します。また、資金繰り表は原則として過去のものではなく未来のものを作成します。将来的に、キャッシュはどうなる?ということをシミュレートするために資金繰り表を作るんですね。

 資金繰り表は、あくまで未来の入出金の予測表ですので、予測値のみだけでなく実績値も入力して、予実差異を分析したりもします。ただし、予実差異を入れると表が長くなりますので、使い勝手を考えながら作成するのが良いでしょう。

例1)予測値のみの資金繰り表

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 1年分の月次資金繰り表になります。上記(2)(3)の項目に対して、予測金額を入れていきます。銀行の借入時に作成する資金繰り表はこのような形式になります。

例2)予実差異も入力する資金繰り表

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 こちらは、予測と実績を入れることで、予実差異を分析するための資金繰り表になります。予測通りになれば良いのですが普通はなりませんので、なぜ、予測とズレてしまったのかを検証していきます。予算を策定している会社では、必須と言えるでしょう。

(5)まとめ

 資金繰り表には、各区分に沿った入出金を記帳していきます。最初のうちはあまり細かく区分せず、大雑把なくらいで良いでしょう。運用していくと、必要な項目というものが出てくると思いますので、その都度、付け足していけば良いかと思います。

 また、これを機に、売掛金や買掛金の入出金スパンを見直すことをオススメします。先にも書きましたが、入金は早く、出金は遅くなるようなスパンにすることで、資金繰りは良化します(そもそもが赤字の場合は厳しいですが)。 

3.用途にあった資金繰り表を作成する

(1)どの期間の資金繰り表を作成するのが良いか

 いざ資金繰り表を作りましょうとなった時に問題となるのが期間です。いつまでの資金繰り表を作るのが良いのでしょうか。

 短期の資金繰りに困っているのであれば1ヶ月とか3ヶ月のものを作成する必要がありますし、とりあえず短期的には問題ないのであれば年単位の資金繰り表を作られるのが良いでしょう。

 どうしようかなとお考えでしたら、とりあえず、1年の月次資金繰り表を作成してみてはいかがでしょうか。

(2)日繰り資金繰り表の役割

 1ヶ月資金繰り表は、実際の入出金を予想し、定期預金の預入や解約をしたり、月末が休みの場合(月ズレ)の対応などを検討します。ただし、僅か1ヶ月後のことですので、結果として現預金出納帳に近いような形になることが多いかと思います。未来の預金通帳を作成するイメージですね。

 また、1ヶ月の資金繰りで右往左往しているような状況は非常に危険な状況です。 

 「月末が土曜日だったので翌月まで入金がない・・・

 「月末の支払ができない・・・」

 こんな状況だとしたら、早めに借入の準備をすることをオススメします(入金後に支払をする仕組みに変えらないかも検討してみましょう)。

(3)月次資金繰り表(1年)の役割

 資金繰り計画も1年ありますと、色々なイベントが出てきます。季節的要因が強い企業の場合は資金需要の多いシーズン、少ないシーズンがあることでしょう。また、夏・冬には賞与の支払もあるでしょうし、設備投資やそれに伴う借入れもあるかも知れません。

 そういった情報を加味し、借入がなくても資金は回るのか、借入をしないと資金が回らないのであれば、いつ借入をすれば良いのかなどを判断していきます。

 特に、設備投資計画がある場合は早めに資金計画を立てていきましょう。

 なお、1年超の資金繰り表を作成する場合も、まずは1年の資金繰り表を完成させ、それをベースに作成していくと作り易いでしょう。

(4)借入時に提出する資金繰り表の役割

 借入時には、金融機関に資金繰り表を提出することが多いです。金融機関によってどのような形式を求めるかは違ってくるのですが、概ね、借入後半年~1年程度の資金繰り表を提出することが多いです。

 こちらにつきましては、全然返済できる見込みがないような資金繰り表ですと当然審査に落ちてしまいますので、ある程度、資金が増えていくような計画案を練る必要があります。

(5)まとめ

 資金繰り表は用途によって期間を変えていく必要があります。短期的な資金繰りに問題がある場合は短期的な資金繰り表を、中長期の資金繰りを検討したいのであれば年単位の資金繰り表を作成する必要があります。

 自社の財務状況を加味し、かつ、将来の投資に役立つような情報として資金繰り表を活用していきたいですね。

4.資金繰りをチェックする指標

 ここでは、資金繰りをチェックするための指標を紹介します。これらの指標を、前年・当年・翌年といったように何期かに渡ってチェックすると、自社の資金繰りがどうなってきているかのトレンドがわかりますので、便利だと思います。ぜひ、ご活用下さい。

(1)売上債権の回収状況を確認する指標

 売上債権回転期間(月)=売上債権(受取手形+売掛金)÷平均月商

 売上債権がどの位の期間で回収されているかを確認する指標です。この数値が大きくなればなるほど、資金繰りは悪化することになります(数値が小さいほど健全)。

(2)仕入債務の決済状況を確認する指標

 仕入債務回転期間(月)=仕入債務(支払手形+買掛金)÷(売上原価÷12)

 仕入債務をどれ位の期間で決済しているかを確認する指標です。こちらにつきましては、数値が小さくなればなるほど、資金繰りは悪化することになります(数値が大きいほど健全)。 

(3)棚卸資産の保有期間を確認する指標

 棚卸資産回転期間(月)=棚卸資産÷(売上原価÷12)

 棚卸資産をどの程度有しているかを確認する指標です。売上債権回転期間と同様に、数値が大きくなればなるほど、資金繰りは悪化することになります(数値が小さいほど健全)。

(4)事例を使った例題

 ここで、日本農薬株式会社平成27年9月期の決算を元に、各比率を算定してみましょう。使用する数値は以下の通りです。

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① 売上債権回転期間

  前期:15,169百万円÷(56,696百万円÷12)=3.2

  当期:14,181百万円÷(56,930百万円÷12)=3.0 ⇒ 0.2良化

 売上債権は約3ヶ月で入金されるスパンと解釈できます。期間としては平均的でしょう。

② 仕入債務回転期間

  前期:7,208百万円÷(32,315百万円÷12)=2.7

  当期:4,947百万円÷(30,930百万円÷12)=1.9 ⇒ 0.8悪化

 仕入債務は約2ヶ月で支払うスパンと解釈できます。売掛金のスパンに対して長めですので、資金繰り的にはあまり褒められたものではありません。

③ 棚卸資産回転期間

  前期:11,222百万円(※1,2)÷(32,315百万円÷12)=4.2

  当期:14,160百万円(※1,3)÷(30,930百万円÷12)=5.5 ⇒ 1.3悪化

 在庫期間が約5ヶ月あると解釈できます。ちょっと長めですかね。

※1 棚卸資産=商品及び製品+仕掛品+原材料及び貯蔵品

    2 8,792百万円+455百万円+1,975百万円=11,222百万円

    3 9,485百万円+436百万円+4,239百万円=14,160百万円

5.さいごに

 資金繰りが悪くなってくると、方々に悪影響を及ぼします。売上の入金がないにも関わらず、仕入債務を支払わなければならなかったり、借入の返済をしなければならないのは非常にキツイです。

 ですので、まずは資金繰り表を作成し、自社の資金繰りがどのような状況なのかを確認しておきましょう。その結果、良いなら問題ありませんが、悪いのであれば対策を打っていかなければなりません。その辺については、こちらの記事が詳しいので、ぜひ、ご一読下さい。

 全ての起業家に捧ぐ!キャッシュフローを劇的に改善する51の全手法

 運転資金を確保するコツと適正なキャッシュの残高について 

 

 そして、自社の月間平均粗利額の3ヶ月分を確保できるようにしていきたいものですね。


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